7.2020年 12月

1/1
前へ
/25ページ
次へ

7.2020年 12月

 季節は冬へと移り変わっていた。いつの間にか、十二月。師走という言葉がぴったりなこの時期は、時が過ぎるのが早いと、聞いたことがあるが、僕の意識下でも、時が経つのは早かった。  気がつけば、冬という季節になっていることに、僕は、不思議な気がしていた。春から夏は、まだ季節の移り変わりを感じていたはずだが、夏以降、季節の移り変わりを実感しなかったのだ。  何故だろうと考えて、ふとその理由に思い当たる。以前の僕は、オフラインの生活だった。例えば、高校へは、自転車で通っていたのだが、それだけでも、四季の移り変わりに触れることが出来た。川辺に咲く満開の桜を見ながらのんびりと自転車を漕いだり、夏の日差しの中、汗だくになったり、秋のつるべ落としに慌てて帰ったり、雪に脚をとられて転んだり。  でも、オンライン生活になった僕は、常に部屋にいた。  常に一定温度に保たれた室内では、そもそも、衣替えという行為が必要なかったし、季節ごとに色や姿を変えて、季節の移り変わりを、僕の視覚に訴えて来る様な物も、室内にはない。  唯一、外の世界を感じられる日々のニュースも、今は、殺人ウィルスのことばかりで、季節を感じるニュースは、全く目にしなかった。だから、僕は、季節が移り変わっているなんて実感が全くなかった。  そんな僕に、冬という季節を(おもむろ)にぶつけて来た人がいた。  オンラインゲームでソロプレーヤーとして暴れまわっていた僕に躊躇なく声をかけてきて、あっさりと、僕の心の中に住み着いてしまった、彼女だ。  彼女とは、あれ以来、毎日のように連絡を取り合っていた。  そして彼女は、僕に冬という季節を、一言で実感させた。 “クリスマス、どうする?” と。  それは、何度目かのオフ会への誘いだった。二人とも同じ大学なのだから、オフ会と称して、学校で会えないかと、これまでにも何度も催促をされていたのだが、まだ実現には至っていなかった。  その理由は、もちろん僕にある。  殺人ウィルスが蔓延しだした頃は、「ウィルスは寒さに弱いから、冬までの辛抱だ」などという、根拠のない噂が囁かれていた。  しかし、僕が意識しようがしまいが、季節は冬へと移り変わったというのに、ウィルスは収まるどころか、さらに強力な変異型が見つかり、巷では、医療崩壊が起きていた。  そのような外界へ、僕が出ていけるはずもなく、僕は彼女の希望を叶えられずにいた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加