とんがり岬の雨女

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ついてない。 作雄(さくお)はそう独りごちた。 昨年、会社が大きな失敗をやらかし倒産の危機に陥った。 作雄は齢40にして次長職に就いていたが、この事件の際に上長である部長が蒸発。責任の矛先が作雄にまで及び、クビは免れたものの平社員にまで降格となった。 そこまではまだ良かった。 『倒産寸前の危機まで乗り越えられたんだ。また頑張ろう』 そう考えていた。 だけど、作雄や前の部長に代わり管理職に就いたヤツが腐った男だった。 『前のようなことが起きないように、自部門内のことは全て監視する』 という名目で、部門内の功績をほとんど自分の手柄だと主張しだしたのだ。実際には監視していないにもかかわらず。 確かにミスは防がれているかもしれない。しかし、実際に売り上げに貢献しているのはそいつではなく現場で頑張っている皆だ。その手柄を全て自分のものだと主張するなど不正も甚だしい。 だが、それをより上の役員に訴えても受け入れられなかった。前の事件が内部の人間の不正に端を発したものであり、作雄がその事件での責任を負わされた立場だったからだ。 実際に作雄がその件に関わっていたかは関係ない。結果として、作雄には責任があったことにされ、会社からの信頼を失っていたのだ。 そのことで同時に、この先どんなに頑張ろうとも作雄が出世することは出来なくなっていることを思い知らされた。 ついてない。 作雄がこれからどうしようか考えていたそんな折、この岬の話を思い出した。 自宅から電車とバスを乗り継いで行ける場所。 岬の先端は切り立った崖になっていて、景色がすごく綺麗なのだそうだ。 危険だから岬の先端には近づけないらしいが、自分はどうせ独り身だ。、困るのは会社の人間たちだけだ。そう思い、久々の休みの日にふらりと足を運んでみた。 ついてない。 目的地付近のバス停で降りた作雄は溜息を吐いた。 岬の周辺は雨だった。これでは最期に綺麗な景色は望めそうにない。 なんだかもう、これは呪われてるんじゃないか? 非科学的なことだと思いつつも、そんな愚痴をこぼしたくなる。悪い時に悪いことは重なるものなんだと痛感する。 それでも、もうここまで来たのだ。そう思い岬に向かって歩いていると、何やら屋根のようなものが見えてきた。 それは小さな休憩所のようだった。 人が数人座れるだけの椅子と机、それに屋根が付いただけの簡素な造りのスペースが岬の先端から目と鼻の先に建てられていた。 景色が綺麗ということで隠れた観光スポットにでもなっているのかもしれない。そう考え、休憩所を横目に岬の先端を目指していた作雄に声が掛けられた。 「あら? こんな雨の中、傘も差さずにどうしたんですか? 風邪、ひいてしまいますよ?」 振り向くと、その簡素な休憩所に一人の女性が座っていた。 本当に、ついてない。
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