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知己は、その時の赴任式での生徒の値踏みされるかのような視線が忘れられない。
(教師は、俺とどう向き合う気だ?)
体育館のステージ下に整列する生徒達の冷めた目が語っていた。
(門脇の高1の頃を思い出すな)
学力不振故か。これまで親にも教師にも見放され、高校生になった彼らは反旗を翻した。
もう、大人なんか必要ない。卒業まで必要最小限の世話をしてくれたらいい。それ以上こちらに干渉してくれるな。
(大人を、教師を全く信用していない目だな。冗談抜きで、全員が「門脇」だ)
生徒達の断固拒否オーラにあてられた知己は、先が思いやられると、新しい高校の理科室で一人溜息をついた。
生徒としても、そろいもそろって赴任した教師が美男美女というので戸惑いを隠せなかったようだが。
知己としては、卿子に向けられる羨望のまなざしに気が気ではなかった。
(生徒の気持ちも分からないではないけど……)
坪根卿子。知己と同じ29歳。ゆるふわカールの栗色の長い髪、春色のオフホワイトワンピーススーツに身を包んだ清らかな姿が、知己の目にもまぶしかった。
(今日の卿子さんも、美しかった……)
それを女子率0%で高校生活を送る男子生徒が目にしたとあっては。
同僚のクロード=井上もそうだ。28歳。カナダ人と日本人のハーフ。金髪蒼眼で189㎝の長身で、モデルのような美形だ。
だが、こちらは男性。しかも見た目がまるっきり外国人なので、察するに英語力も確実に乏しそうな生徒たちは、アレルギー的に敬遠した雰囲気だった。
その日、帰宅して将之に話すと
「ある意味ハーレムじゃないですか?」
謎の言葉をまたもや吐く。
「なんで、だ?」
知己が聞き返した。
「だって、先輩、男限定でモテるから」
「そうか。分かった。殴ってもいいか?」
「なんでそうなるんです?」
将之は本気で心配しているのだが、その真意は伝わりにくく、知己には嫌味と思われてしまったようだった。
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