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「理科室出禁なんて持ち出して……。別に理科室なんか来なくたって全然、平気だし! 俺は絶対に謝らないぞー!」
「……」
だが、助け船出したはずの章と俊也の二人は微妙な表情のまま。敦の言葉に乗ってこなかった。
(以前は一緒になって追い詰めたのに……)
言いようのない怒りは、ますます猛り、知己へと向かった。
「お前のしがない権力になんか屈するもんか! 言われなくても二度と来ねえよ、こんなとこ!」
「えーっと……。敦には言ってないが」
「なんだよ! 俺だけ、えこひいきとかするな!」
梅ノ木グループ三男様が吠えた。
「だって、お前、あの時いなかったじゃないか」
「あ」
冷静に考えたら、そうだった。
4月当初、敦は登校していない。
固まる敦をよそに、色々考えた末
「……しゃーない。謝ってくるか」
俊也がきまり悪そうに頭をかきながら立ち上がった。
「俊ちゃんが謝るのなら、僕もー」
思いのほか一番ゴネそうだった章が、軽くそれに続く。
「お前ら、こんなバカな駆け引きに乗るのか?!」
敦が不愉快そうに言うが
「確かに後付けの理由っぽいけど、テストする理由を先に言ったら俺達絶対にテストを受けなかったと思うし。先生がこれだけ姑息な作戦をするっていうのも、そんだけ俺達に謝らせようと必死だったのかなって思って」
ぼそぼそと小声で俊也が言う。
「理科室出禁になったら、蓮様に会うチャンスなくなるもん。それは困るからさー」
と明るく章。
(章はともかく、あの俊也が……!?)
敦は耳を疑った。
「なあ、先生。謝ったら、残りの二日ここに来ていいのか?」
俊也が確認した。
「いいぞ。ただし、補講の内容全部終わっているから……やることは理科室の掃除くらいだが」
それを聞き
「だったら出禁上等! 謝らなくていいな、お前ら!」
敦がことさら嬉しそうに言ったが、それと被る絶妙なタイミングで
「勉強じゃないなら、願ったりだ! やったー! ラッキー!」
意外にも「掃除」に飛びついた俊也の大声と重なってしまった。おかげで敦の言葉はかき消され、よく聞こえなかった。
「ん? なんか言った?」
敦を不思議そうに俊也が見つめたが、敦は見たこともないようなしかめっ面でそっぽを向き、二度と言ってはくれなかった。
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