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「敦は次の授業は?」
「最終日だから、ここで終わり。午後はない」
「そうか。良かったな」
「何が良かったのかは分からんが……」
と、何やら言いたげに敦は赤くなって足元の床を見つめた。
「?」
なんだろう? と思って見ていると
「補講全部終わったから、敦ちゃんも掃除を手伝いたいんだよね?」
窓の近くに居る章が、やや大きめの声で教えてくれた。
「誰が!」
敦は即答するものの
「手伝ってくれるのなら、有難い」
知己は即座にクリーナー液のボトルとペーパー、手袋を敦に差し出した。
「ふん!」
敦は知己の手からかっさらうように掴むと、使い捨ての薄いゴム手袋をはめた。
(なんかこれ、手術みたいだな)
ドラマでよくあるシーンを思い浮かべながら
「これでどこ拭くんだよ?」
と訊くと
「後は、一番前のホワイトボードくらいしか残ってねえ。頼む」
知己はやっぱり嬉しそうに答えた。
理科室の全面に大きく設置され横で二面に切れたホワイトボード。スライド式で上下を入れ替えて使える優れものだ。
「……おい。お前。適材適所って言葉知ってるか?」
敦がホワイトボードの正面に立ち、睨みながら言う。
「ん? 今日もお前はマスクしているから薬剤使っても大丈夫かと頼んだんだが、なんかまずかったか?」
知己が気づかないでいると
「身長157㎝。伸び盛りの敦ちゃんには、その大きなホワイトボードはちょっと酷だよね」
章が、敦がさらに不機嫌になった理由を教えた。
「章! 無駄な気遣いは入れるな!」
『伸び盛り』と言われた方が傷つく。
「俺、代ろうか?」
知己と同程度172㎝の梅ノ木グループ傘下レストラン部門社長の息子が、やはり気遣いを見せたが
「全員むかつく! もういい! 椅子に乗ってでも俺がする!」
と敦が完全に臍を曲げて、ホワイトボードに立ち向かった時だった。
「身長の話は、するな!」
と、勢いよく理科室のドアが開いた。
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