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「実は私、ミス慶秀大になったの」
一呼吸おいて、美羽は話し始めた。
「ああ。家永から聞いてるよ。おめでとう」
「あ……! い、う……ん。えーっとぉ、い、家永……准教授……ね」
なぜか滑舌悪く五十音でも言いだしたかのような美羽だった。
「先生の友達なんでしょ?」
「ああ、そうだけど……?」
「そう……」
浮かぬ顔の美羽の言葉に反応したのは、
「ミス……?」
意外にも敦だった。
「今年の?」
「ええ。そう」
「……じゃあ、お前か?」
門脇に腕を回していたというのもあってか、美羽に対して敦は厳しい口調だった。
「?」
「TV局の取材も特集の編集もほぼ終わっていたというのに、妙な発言で放映をお蔵入りさせたっていう今年のミスは、お前か!?」
放送中止?
それはただ事ではない。
そんなことを元・教え子が引き起こしたと聞き
「御前崎……」
知己が顔色悪く
「一体、何を言った?」
と尋ねた。
「別に変なこと言ってないわよ。『白衣は好きか?』って言ったの」
だが夕刻のお茶の間に流すには憚られたのだろう。番組は突如中止になった。
「なんで敦は、そんなこと知ってんの?」
今度は敦に訊くと
「兄貴から聞いた。うちの会社がスポンサーの特番だったんだ。広報部とタイアップしての番組だったんだって。お蔵入りで、取材した労力も時間も費用もすべてポシャったって。頭抱えてた」
と答えた。
「提供は梅ノ木グループでしたー! みたいな?」
章がふざけてTV番組を装う。
美羽は開き直って
「だったら、NGワード決めてミスコンで言わないようにってしてたら良かったのに」
と言うと
「もう、した。来年度から同じミスは起こさせない」
敦は冷静に対応していた。
「洒落か?」
俊也が言えば
「……洒落じゃない」
思いがけない親父ギャグとなり、敦は歯切れ悪く答えた。
「……あー、まあ、そういう訳で」
美羽はすぐに気持ちを切り替えた。
「優勝したのはいいんだけど、ミスになったら、なんだかストーカーみたいなのが何人も現れて、私の周辺をうろうろするようになっちゃったの。それで、怖くなったんで門脇君に彼氏兼護衛役を頼んだの」
「それは……適任だな」
高校時代から美羽の気持ちを知っている知己は、微笑ましく思った。
門脇に守ってもらえるのなら御前崎も望むところだし、何より門脇の腕っぷしの強さは折り紙付き。美羽の安全は保障されている。
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