夏休みは もうすぐ 2

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「……!」  思わず知己は顔を背けた。 「お前ら、その話は……またな」  門脇は、美羽とも誰とも目を合わさない。遠く、ここではないどこかを見るようなまなざし。その視線は、まるで叶わぬ恋を見つめているようにも思え (否定、しない……!?)  美羽の瞳が揺れた。  同じ年なのに、なんだか門脇がずいぶんと大人に思えた。  すぐ隣に居る門脇がすごく遠い人に思え、美羽はどんなに手を伸ばしても届かないんじゃないかと思えた。  そう思うと、ずきんと胸の奥が痛んだ。  痛むだけではない。  きゅうっと締め付けられて、言いようのない不安が次から次へとあふれ出してきた。  切なくて、このままここに居たら泣き出してしまう。 (や。……門脇君の好きな人を聞いて、泣きたくない……!)  「……あの、門脇君……」  つんっと門脇の袖を引いた。 「あの、私、……ちょっと用事を思い出しちゃって。平野先生にも会えたし。帰りは大丈夫。ストーカーはキッチリまけていると思うし。一人で帰れるから……また、ね」  我ながらベタな言い訳だと思ったが、しどろもどろになりつつも美羽は言った。 「あー。ボインで綺麗なお姉さん、帰っちゃったね」 「ボイン! ……死語!」 「じゃ、パイオツカイデー姉ちゃん」 「あはははは!」  俊也の発言に、章がこれでもかと言わんばかりに受けていると 「門脇! 何している! 今すぐ追え!」  知己は血相変えて叫んでいた。 「俺は警察犬じゃねえ」  ぼそっという門脇だったが 「拗ねている場合か!」  知己は、早く早くと急かした。 「あのさ」  門脇が不機嫌に口を開いた。 「追ってどうすんだよ? 捕まえてどうすんだよ?」 「どうするって……」 「こいつらの言った通り『俺は先生が好きです。諦めてください』って言うのかよ」 「う」  知己は言葉に詰まった。 「人の色恋に土足で踏み入ってくるこいつらもどうかと思うが、先生もどうかと思うぜ。追っかけたその先どうすんだよ。適当に気をもたせるようなこと言って慰めるつもりか? 繋ぎ留めさせる気か? そういう優しさって、結局は優しくないんだぜ。偽善者か?」 「う、ぐ」 「しかも、それを俺にさせる気か?」  知己を好きだという門脇に、美羽を追えというのはよく考えたら酷な話だ。 「ぐぅ……」 「もう真実知らせちまって、後は御前崎の判断に任せた方がよくね? この後、どうするかは御前崎の勝手だし」
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