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「……!」
思わず知己は顔を背けた。
「お前ら、その話は……またな」
門脇は、美羽とも誰とも目を合わさない。遠く、ここではないどこかを見るようなまなざし。その視線は、まるで叶わぬ恋を見つめているようにも思え
(否定、しない……!?)
美羽の瞳が揺れた。
同じ年なのに、なんだか門脇がずいぶんと大人に思えた。
すぐ隣に居る門脇がすごく遠い人に思え、美羽はどんなに手を伸ばしても届かないんじゃないかと思えた。
そう思うと、ずきんと胸の奥が痛んだ。
痛むだけではない。
きゅうっと締め付けられて、言いようのない不安が次から次へとあふれ出してきた。
切なくて、このままここに居たら泣き出してしまう。
(や。……門脇君の好きな人を聞いて、泣きたくない……!)
「……あの、門脇君……」
つんっと門脇の袖を引いた。
「あの、私、……ちょっと用事を思い出しちゃって。平野先生にも会えたし。帰りは大丈夫。ストーカーはキッチリまけていると思うし。一人で帰れるから……また、ね」
我ながらベタな言い訳だと思ったが、しどろもどろになりつつも美羽は言った。
「あー。ボインで綺麗なお姉さん、帰っちゃったね」
「ボイン! ……死語!」
「じゃ、パイオツカイデー姉ちゃん」
「あはははは!」
俊也の発言に、章がこれでもかと言わんばかりに受けていると
「門脇! 何している! 今すぐ追え!」
知己は血相変えて叫んでいた。
「俺は警察犬じゃねえ」
ぼそっという門脇だったが
「拗ねている場合か!」
知己は、早く早くと急かした。
「あのさ」
門脇が不機嫌に口を開いた。
「追ってどうすんだよ? 捕まえてどうすんだよ?」
「どうするって……」
「こいつらの言った通り『俺は先生が好きです。諦めてください』って言うのかよ」
「う」
知己は言葉に詰まった。
「人の色恋に土足で踏み入ってくるこいつらもどうかと思うが、先生もどうかと思うぜ。追っかけたその先どうすんだよ。適当に気をもたせるようなこと言って慰めるつもりか? 繋ぎ留めさせる気か? そういう優しさって、結局は優しくないんだぜ。偽善者か?」
「う、ぐ」
「しかも、それを俺にさせる気か?」
知己を好きだという門脇に、美羽を追えというのはよく考えたら酷な話だ。
「ぐぅ……」
「もう真実知らせちまって、後は御前崎の判断に任せた方がよくね? この後、どうするかは御前崎の勝手だし」
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