悪名高き八旗高校 2

1/3

242人が本棚に入れています
本棚に追加
/778ページ

悪名高き八旗高校 2

「やべぇ。ここまでとは……」  学力低迷もこの学校の悩みだと言っていたが、その通りだった。  知己もクロードも抜けた穴を埋めるべく、2年生担当になった。  だが、その2年生はことさら学力と行動面に問題があるとして教師たちに忌み嫌われ、担当教師が居ない学年でもあった。  当然のように高校生として基礎的なことが抜け落ちてて、授業が成立しない。  かつていた東陽高校でも門脇蓮の授業態度が最悪で、それに便乗して授業妨害する生徒も数名いたが、それとは質が異なる。  教科書は出すものの、開こうとしない。  荒んだ空気の中、知己は授業の触りで、 「酸性の反対は?」  と聞いてみた。  一瞬の沈黙。  これは誰も答えないのではと「断固拒否」姿勢の表れかと思いきや、突然、一人の生徒から 「反対」  と答えが出た。  ふざけているのかと思えば、それを皮切りに次々と生徒から手が挙がる。 「断固拒否」の生徒も数人いるが全員ではないのだなと思われた。  それなりに授業には臨んでくれている者もいると分かって安心したものの、次の生徒の答えは 「反酸性」 (え?) 「非酸性」 (はあ?)  だった。  次々と打消しの文字を付けて、至極真面目に答える。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる方式だった。  とどめは 「弱酸性」  と真顔で答えられた日には (ビオ〇かよ……)  教卓にがっくりと項垂れる知己が居た。 「どうしたらいいんだよ……」  化学の教科書を睨んでも、これまでと全く違う反応に、どう授業を行えばいいのか、皆目見当つかなかった。 「あははははは……」  4月の第三土曜日。将之が命名した定例の「月一逢瀬」である。  今日も適当に家永が選んだ喫茶店に入り、本日のおすすめコーヒーを飲みながら、いつもの近況報告にその話をすると、家永がツボったらしくひとしきり笑い転げた。 「……笑い過ぎだ、家永」 「いや、すまん。まさか『弱酸性』とは……。テレビで聞きかじった言葉を出してきたなって感じだな」  家永はメガネを上げ、思わず溢れた涙を拭いている。 「どうしようか悩んでいるんだが、なんかいい方法ないか?」 「さあ」 「冷たいな」 「だって、俺の置かれている状況の方が過酷だからな。お前の心配している暇はない」 「家永の置かれている状況?」 「聞きたいか?」 「……」  どちらかと言えば、聞きたくない。  多分、知己にとっても良くない話だと軽く予測される。 「門脇君が、な」 (やっぱりーーーーーー!)  家永の第一声に、知己は思わず耳をふさいだ。
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加