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門脇の冷静な判断は、もっともなのかもしれない。
(だけど……)
知己はやっと言い返す言葉を見つけた。
「だけど、このまま帰したら後味悪くないか? どっちかというと御前崎と言うよりも門脇が」
「ぬ?」
さすが師弟関係だけあって、反応が似ている。
思いがけない知己の言葉に、今度は門脇が口を噤んだ。
「だって門脇、御前崎の気持ち知ってて彼氏役なんて引き受けたんだろ?」
「それはストーカー対策だからだ」
「でも、彼氏役じゃねえか」
「ぬぅ」
再び門脇が言葉に詰まったかと思ったら
「あー! もう!」
次の瞬間には叫び出した。
「ダメだ! 偽善者に騙されちゃ、蓮様!」
たまりかねて敦が言う。
「そうだ、そうだ!」
俊也がムダに盛り上げた。
「偽善者の上に、e(c)だからね!」
「敦ちゃん、何、それ?」
聞いたことのない公式に、章が尋ねると
「……いーかっこしー(=良い恰好しい)、だ。なんかゴロが数式っぽかったので、つい……」
敦が気まずそうに説明する。
「敦。(e)=かっこいいー!上手いこと言うなぁ。冴えてる!」
俊也は同調してひたすら褒めていたが、敦の方は俊也が褒めれば褒めるほど微妙な表情になって俯くのだった。
「もう、お前らは黙ってろ!」
知己は三人に一喝すると、門脇に向き直った。
「門脇。とりあえず今回のことに触れずに御前崎を家まで送ってやれ! でないと」
「でないと?」
「俺は……、門脇のことが嫌いになりそうだ」
「は?」
「門脇こそ理科室出禁だ!」
「ちょっと追ってくる」
「え? 早っ!」
「マジ? 弱っ!」
「蓮様、弱っ!」
高校生3人が次々と門脇を「弱い」「弱い」と連呼した。門脇が美羽を追い、聞こえぬと分かっている所がタチが悪い。
「激よわっ!」
「ぐうよわ!」
「なんだ、そりゃ」
思わず知己が訊くと
「ぐうの音も出ないほど弱いの略」
聞くんじゃなかったという返事だった。
「あ、先生。どこに行くの?」
章が理科室を出ようとした知己に尋ねた。
「とにかく俺も門脇を追う」
とりあえず美羽の後を追わせたが、今度は門脇が何を言うかが心配になった。掌返したかのような素直な態度が気になる。先ほどのような冷酷な一言でも浴びせかねない。
「なんか知らないけど、面白くなってきたので俺も後を追う」
「僕もー」
「俺も」
結局全員で美羽を追いかけた門脇を追跡した。
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