夏休みは もうすぐ 2

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「先生、先生ー!」  特別教室棟から教室棟、管理棟まで一直線でつなぐ渡り廊下で、章が声をかける。 「お前らは、ついてくるな!」  門脇の脚力・瞬発力は、生半可に走ったって追いつかない。来賓用スリッパ履いてたくせによくもまあ……という速さで、門脇は既に見えなくなっていた。追う知己は焦っていた。 「だって、面白そうだし」  章が悪びれずに言う。 「そういう興味本位は良くないぞ」 「自分のことは棚に上げて」  敦が知己を咎める。 「俺は心配なんだ」  と言えば 「だったら、僕らも心配。蓮様のことがめちゃ心配。すごーく心配」  章が演技くさく手を胸の前で組んで見せた。 「だから、先生と一緒に蓮様を」  俊也がズバリ言うと 「俺はじゃないってば」  知己は苛立たし気に答えた。 「どっちにしろ、追跡するのに邪魔そうだから白衣は脱いだら?」  章が、前を走る知己の、バタバタと翻る白衣を指摘した。 「あ、そっか」  立ち止まって脱ぐと、なぜか章が嬉しそうに白衣を受け取ってたたむ。 「目立たないように白衣まで脱ぐとは。……やっぱり覗きじゃん」  敦はブツブツと文句を言うと 「あー、もう! ついてくるのなら、絶対に混ぜくるなよ!」  3人の阻止は、もはや東大の問題より難しいと諦めた知己が叫んだ。 「それ、先生が言う?」 「俺は混ぜてない」 「混ぜてはないけど、二人が拗れた原因だよね?」 「くぅ……!」 「そしてあんたは、更に拗れるかもしれないのに蓮様を追うように仕向けた偽善者のえーかっこのしい」 「出た、敦ちゃんの謎の公式!」 「かっこいー!」   (こいつら、絶対に楽しんでいるな……)  囃し立てる3人をお供に、知己は管理棟までたどり着いた。  門脇に追いついたのは、学校の玄関正面・事務室の辺りだった。 「あれ? 御前崎、居ないな」 「蓮様と先生、追うまでが遅いよ。理科室でだいぶ揉めてたじゃない」 「その間に帰ったかー。ちっ」 「敦、舌打ちするな。しかし、門脇の脚力でも追いつかなかったか」  渡り廊下から管理棟内部へ続く階段の脇からそっと覗いてみた。 「なんだ。ついてきたのか?」 「……ごめん。門脇」  4人のにぎやかな団体様は、あっさり門脇に見つかった。 「俺、信用ねーんだな」  事務室前の来校者名簿に退校時間を書き込みながら門脇が、すげなく言うと 「そんなつもりじゃ……」  知己の目は、大海原のイルカのように気持ちよく泳いでいた。
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