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夏休みが来た 1
「それでホームセンターでは、なかなかの大ごとになってたんだが、御前崎は無事。本当に良かった」
知己は家永に嬉しそうに報告した。
あの後、知己もすぐに門脇の後を追った。
三人の高校生は、さすがに補講期間中なので学校外に出ることは許されない。玄関で足止めを食らい、知己は一人で追うことができた。
門脇は一足速くホームセンターに着いてDIYコーナーに向かい、美羽を探した。なにせ門脇の俊足っぷり。知己も遅れて到着したときには、通路に男が吹っ飛んでいて、その男に店員が駆け付けていた場面だった。
店員、気絶した男、門脇とその門脇にすがってグスグスとなく美羽に、関わりたくはないが面白半分に群れる野次馬で人だかりができていた。
始めは男女の三角関係のもつれと思われていたが、美羽や知己の証言ですぐに門脇がストーカー被害から救ったのだと店の人にも分かってもらえた。
そして、その混乱にまぎれてもはや買い物どころじゃなくなった美羽は、限りなく用途の怪しい物を買わずに門脇に送られて帰った。
知己は二人を見送りながら、安心の息を吐いた。
7月定例の第三土曜日は、なんとか強制補講も終えた翌日のことだった。
ようやく待ちに待った夏休みが到来。本格的な休みになった。
昨日の美羽の救出劇もあってか、やや興奮気味に知己が家永に話すと
「あー。そう」
家永の方はテンションダダ下がり。
「なんだよ。ノリ悪いな」
「逆だ。俺がノリ悪いんじゃなく、平野のぷいぷい言いっぷりについていけない。
夏休みと言えど、教員は夏休みじゃないんだろ? いつも世間の認識に文句言ってたくせに、本格的夏休みになって、嬉しそうだことで……」
蒼い顔をして家永が言った。
「そりゃそうだが、通常勤務とストレスは全然違う。めちゃくちゃ気が楽だし」
「やんちゃな高校生のお守りは大変か?」
「そうだな」
少し考えて知己は
「それもあるけど新しい学校だし、まだ生徒にも学校のやり方にも慣れない……っていう方が正しいかな? 一概にあいつらの所為とか言えない。決して言わない」
ぐちゃぐちゃと言えば言うほど、章達のお守りは大変としか聞こえない。
「はいはい。要するに、三人の高校生の守が大変ってことなんだな?」
家永が確認する。
「……? なんで家永、そんなに不機嫌なんだ?」
やたらとさっきから冷たい反応しか示さない家永に逆に知己が訊いた。
「ん……。すまん。体調がなんだか優れなくてな」
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