夏休みが来た 1

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「体調が優れない? まさか未だに御前崎周辺男子の嫌がらせが続いているのか?」  先月まで知己もさんざん味わったメンタルに来る学生からの嫌がらせ攻撃のことを心配すると 「いや、大学は高校よりも先に夏休みを迎えている。今、大学に来ているのはほぼ職員ばっか。学生だって研究ごとがある限られた者や卒論抱えた4年生や院生ばっかだな。今は嫌がらせめいたこともないし、学生相手の講義もしなくていい。お前じゃないけど、気楽なもんだ」  という家永だった。 「それに御前崎周辺男子の妬みとかめんどくさい系は、全部門脇君が引き受けてくれたからなぁ」 「そっか」  確かに門脇は「彼氏役」ということで、美羽と行動を共にすることが増えた。  美羽の彼氏役を引き受けた当初、門脇をよく知らない者が、無謀にも嫌がらせをしては、門脇曰く「鉄拳制裁」の返り討ちに遭った。それもこの時期にはもはや挑む者はかなり減ったようだ。八旗高校近くのホームセンターで、「俺の女」呼ばわりに美羽は、いたく感動していたが、クレバーな門脇だ。どう言ったら一番ストーカーにダメージを与えられるか、考えた上での発言だろう。こうして、少しずつ確実に美羽周辺のアブナイ男子は削られていっている。 「じゃあ」  また不摂生祟って風邪気味なんだろう……と知己は思った。  実は、家永はよく体調を壊す。  職業病みたいなもので、研究の実験のために時には昼夜逆転、あるいは一日中通して記録(データ)を取ることもある。そのために食事も睡眠もままならぬ状態に陥り、体力が落ちて、結果、風邪症状にみまわれるのだ。  これまでも何度もあった。  講義関係なくぶっ通しでやる実験には、もってこいの夏休み。  またもや実験を詰め込んだのかと 「実験、立て込んでいるのか?」  訊いたら 「いや。実験は、そこまで忙しくない。ただ最近、寝が浅くて。暑いだろ? 夜の三時頃になるとなんだか目が覚めてしまって、寝付けない。その後いつの間にか寝てしまっているって感じでスッキリしないんだ」  家永は熱帯夜事情を話した。 (ん? 夜の三時……?)  知己は何か引っかかるものを感じたが、ただの偶然と割り切ることにした。
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