夏休みが来た 2

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「……」 「あれ?」  そこには将之の姿はなく、見たことのない二十代前半の女性が立っていた。  将之と知己の住むマンションはオートロック。しかも最上階の15階にはこの家しかない。  他人が間違えて入れるはずはない。 (なんで……?)  将之ではなかった謎にぽかんと口を開けて佇ずむ知己と女性はしばし見つめ合った後、女性が先に動いた。 「き……っ」 「き?」 「きゃあああああああ!!」  全裸の男を前にして、当然の反応。 「ちょ、君、誰?!」  サイレンのように喚きたてる女性に、肩にかけてたバスタオルで慌てて隠しつつ知己は尋ねると 「誰って、あなたこそ誰よ! 出てって、痴漢!」 「痴漢?!」 「じゃなかったら、露出狂!」 「露出狂?!」  それはもう学校で敦に言われ過ぎているくらいの汚名を、ここでも浴びせられた。 「変態! 強盗! おまわりさーん!」 「ちょっと待て! 不法侵入なのは、そっちだろ?!」 「助けてー! 日本のおまわりさーん! 911!」  通常ならおいそれと近隣の音聞こえぬ設計のマンションだったが、玄関開けてのやりとりと尋常ではない女性の悲鳴まじりの騒ぎ。階下の者が聞きつけ、110番通報したようで、優秀な日本のおまわりさんがやってきたのは、その5分後だった。  それが将之が帰ってくるまでの20分間。  出来事のすべてである。  テーブルを挟んで将之と知己が、向かいに先ほどまで叫びに叫びまくっていた女性。複雑な面持ちの三人がリビングのソファに座らず、段通の上に直に座っていた。 「えーっと、とりあえず紹介します」  将之が右手で正面の女子を、「はい」と掌差し出して促せば 「……な、中位礼(なかい あや)です。初めまして」  決まり悪そうに、その子は名乗った。 (中位礼(なかい あや)……)  聞いたことがあった。  確か、将之の3歳下の妹だ。  肩までかかる栗色の髪は、少し癖があって毛先は優雅にくるんと大き目のカールを描いていた。目鼻立ちのはっきりとした美しい顔立ち。モノトーンツーカラーの縫製しゃれたワンピースに細い鎖の金のネックレスが上品さを醸し出している。  冷静に見たら、確かに将之によく似ていた。 「じゃ、先輩も。はい」  今度は左手で将之に促される。 「平野知己(ひらの ともき)です。は、初めまして……」  言いつつ、徐々に語尾が小さくなる。 (まあ、あの時は、冷静に見れる訳がないよな……)  図らずも若い女性に全裸見せた方としては、正面から顔を見ることができない。顔を赤く染め、もはや俯くしかない。
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