悪名高き八旗高校 2

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「こら、真面目に聞けよ、元担(もとたん)」 家永は身を乗り出して二人の間を阻むテーブル越しに、知己のふさいだ両手をこじ開けた。 「だって、絶対にいい話じゃねえだろ!?」  涙目になって抗議する知己に 「門脇君がな、俺の授業真面目に受けるんだ」  と家永が言った。 「?」  それのどこが過酷な状況なのかが、分からない。 (むしろ普通だろ、それ) 「他の授業は寝てやがる門脇が、俺の授業だけ起きて、熱心に講義を聞いている」 (……ん?) 「あまつさえ、あいつ寝ながら『先生、好き……。大好き……。先生の為なら死ねる』だの恐ろしい寝言を言っているらしい」 (……んん?!) 「そこで立った噂が、こうだ。 『門脇君、どうやら家永先生のことが好きらしいよ』ってな」 (……んんんんんっ!?)  二人の間に、しばらくの沈黙がおりた。 「……どうしてくれるんだ」 「いや、どうしてくれるって……」  確かに、それはもしかしたら知己よりも過酷(?)な状況。  そんなの、どうしたらいいのか分かるはずもない。  ただ、家永の話はそれだけに終わらなかった。 「しかも門脇君本人はそんな噂を知らずに、俺の研究室に嬉しそうにやってきては、何かとお前の情報を引き出そうと入りびたる。それで噂に尾ひれがついて、もはや両想いなのでは……となっている」 「……」 「風評被害だ」  なんとコメントしたら良いか分からずに知己が困っていると、家永が 「文学部の同僚・水野先生は『家永さん、僕と同じですねー! 困ったことあったら僕に何でも聞いてください。いつかのお礼でいっぱい相談に乗りますよ!』となぜか喜んでいる。まず、これが意味が分からん」 「……俺も分からん」 「一番迷惑なのが、その文学部の巨乳新入生女子が俺に呪いの言葉を吐いてくる」 (文学部……、巨乳……、新入生……、女子…………)  これらの情報を手繰ると、知己の頭には (御前崎美羽、だな!)  東陽高校時代も男子人気不動の三年間1位を築いた美少女が、ぽぽんと思い浮かんだ。おそらく、今も進路先の大学で男子の人気を博しているのだろう。その美羽に恋敵として睨まれたとあっては。  御前崎美羽は、かなり印象的な美少女なのだが、家永の口ぶりからすると記憶にないようだ。確か以前、オープンキャンパスかなにかで家永も会ったことあるはずだが、すっかり忘れているらしい。 (学生って多いもんな)  学生の新旧入れ替わりが凄まじいさなか、オープンキャンパスでちょっと会った高校生など覚えているわけがない。そうでなくとも、家永は研究で忙しい男だ。対人関係にはことさら興味がなく、疎かった。
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