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「ところで礼ちゃんは、今日、どうしてここに?」
将之に釣られ、知己も思わず「礼ちゃん」呼びしてしまった。
礼の方はまったく気にしていないで「ん?」と言おうとしている傍ら、外野で将之が
「先輩は、僕の礼ちゃんを『礼ちゃん』呼ばわりしないでください! なれなれしいですよ!」
と勝手に怒っている。
「じゃあ、なんて呼んだらいいんだ?」
「え? そうですね。『礼』……はダメ。もっと馴れ馴れしい。『礼さん』は年下に対してちょっとおかしいな。やっぱり『礼ちゃん』ですか?」
一周回って同じ地点に着地した。
「そうだな。『礼たん』……は、どうでしょう?」
更にゴールを行き過ぎた発言に至っては、知己は無視することにした。
将之が落ち着いたようなので、礼は先ほどの知己の問いに答えた。
「んー。お兄さんに会いに、ちょっと日本に来たんです」
「?」
「礼ちゃんは、アメリカに住んでいるんです」
「はあ?」
「今、シーズンオフ。休みなんです。あ、日本もか」
「えーっと?」
「アメリカは8月末スタートなんですよ」
「いや、そうじゃなく」
「高1の時に家出しました」
「いや、話がさっぱり見えないんだが」
この兄妹は。
いや、兄妹だからこそ。
揃って、知己に分からない会話を好き放題ぶっ込む。
そういえば、先ほども知己を痴漢だの露出狂だの、さんざんに罵倒していたことを考えると
(この礼ちゃんって子。顔どころか、性格や思考回路まで似てるんじゃねえか?)
イヤな考えが寄ぎる。
(と、いうことは)
限りなく、知己にとって面倒な人間に属する。
(まずいな。礼ちゃん滞在期間中は、面倒事が起こらないように気を付けておこう)
知己は、そう思った。
「つまりですね……」
話の進まなさに将之が痺れを切らして、説明を始めた。
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