夏休みが来た 2

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 将之、高1。  礼、中1。  父親の都合で転勤の多い中位兄妹が、 「今度は、ここに長く居る。少なくとも三年は居るつもりだから」  と言われて、喜んで鷹隼学園高等部と中学部に揃って入学した。父の転勤が多いため、ろくに友達という友達ができた試しがない礼は特に喜んだ。  将之は高等部で知己と出会った。  礼もここで友達を作り、中学時代を謳歌するつもりだった。  が、父は、春先の言葉をたやすく裏切って、一年も経たないうちにまたもや転校を告げた。  やっと友人ができ、さあこれからという時にまさかの転校。  礼は怒った。  そして、両親にも兄にも内緒で着々と準備を進めていたのだ。  礼が高1になった時、それが明るみに出た。  またもや父親が転勤を考えていたときだ。  将之は既に大学進学を決め、一人暮らしするようになっていたので、今回ばかりは被害を被らなかった。ただ高校生の礼は、そういう訳にはいかない。またも父親の転勤につき合わされるかという時に 「私、アメリカに行くから」  高らかに宣言した。 「何言っているんだ、礼?」 「決めたの。お父さん達に振り回されないって。  もう進学するアメリカの学校も決まっているし、向こうの寮にも入る。何の心配もいらないわ」  そう言って、礼はアメリカに単身留学した。  両親は猛反対したが、礼の怒りは凄まじかった。  反対押し切って、半ば家出のようにして渡米した。 「……と、いうわけで」 「未だ、家出娘続行中です」 「時々、日本にやってきては、僕とちょっとだけ過ごしてくれるんです」 「お兄さんに罪はないから。だけどお父さんには、会ってあげないもん」  どうもこの兄妹、世間の価値観からずれている気がする。 (政治家の子って、こうなんだろうか)  身近で言えば、門脇蓮。彼のド直球攻撃に知己は毎度毎度辟易している。門脇蓮の来校喜ぶ吹山章は、その最たるもの。変化球過ぎて、何を考えているかさっぱり分からない。 (でも、可愛いもんだよな。アメリカに留学して9年。たまに将之に会いに帰ってくるなんて)  家出のグローバルさや金銭感覚の違いをおいたら、礼は24歳のうら若き、しかも将之似の美しい娘である。
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