夏休みが来た 2

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「お金、どうしたの?」  アメリカ留学ともなれば渡米前の準備から渡米後も学費生活費ともに、すごい金額になるだろう。 「今の生活費は父から奪い取ってます」 「あれ? 家出だったんじゃ?」 「だって私、まだ父の扶養家族だもん。しっかり私の口座に振り込んでもらっています」  当然でしょと言い出しかねない礼に 「そこが礼ちゃんのすごいとこ!」  将之が太鼓持ちまで始めた。 (それ、家出っていうのかなぁ?) 「秘密に準備を進めていた時期は、母方の祖母に出世払いで、いつか返す条件で出してもらいました。まだ出世はしてないけど」  ということは。 「まだ学生なんだ?」 「今はマサチューセッツの大学院に籍を置いて、ロボット工学を研究しています」  卿子とはタイプ違う美人ににこりと微笑みかけられて、知己はイヤな気はしない。 「へえ。マサチューセッチュ……」 「言えてないですよ、先輩」 「うっ……」 「あはは、平野さん。面白い! 面白い!」  礼は手を叩いて無邪気に喜んだ。 「じゃあ、じゃあ『きゃりーぱみゅぱみゅ』って言ってみて」 「きゃ、きゃりーぱむぱむ……?」 「あははははー! じゃ次は、『手術室』って……」  なぜか礼の怒涛の滑舌難語攻撃に知己は晒された。 「礼ちゃん。いい加減にしないとお兄ちゃん、怒っちゃうぞ」 「えー? どうして?」 「先輩を玩具にしていいのは、僕だけだから」  玩具。もちろん性的な意味で、でもある。 「お前……。俺をそんな目で見てたのか?」  知己が言うと、将之は 「やだなぁ。冗談に決まっているでしょ?」  平然と言った。 「何よぉ、お兄さん横暴だわ! 私ももっと平野さんで遊び……じゃない平野さんと遊びたいのに!」 (今、俺遊びたいって言ったよな?)  知己は聞き逃さなかった。 「長くアメリカにいると、を間違えることよくあるんですよ」  絶対に言い訳だろと思っている知己の隣では 「ある! ある!」  言い間違いを胸を張って正当化する礼に、ニコニコ笑顔で太鼓持ちあげまくる将之。 (こいつ、なんかさっきから腹立つんだけど)  やたらと礼を持ち上げる将之を睨みながらも 「兄妹仲、いいんだな」  思わず感想を言うと 「普通でしょ?」 「そうよね」 「昔から、こんな感じだもんね」 「ねー」  顔を見合わせて答える辺り、いかにも仲良し兄妹だ。  これまで知己の知っている兄妹関係は、あまりお互いに干渉しないイメージだ。こんなにべたべたあまあま(知己の主観)な関係はあまり見ない。
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