夏休みが来た 2

7/12

242人が本棚に入れています
本棚に追加
/778ページ
「お兄さん。私、明日の朝ご飯にエッグベネディクト食べたい」  なにやら思いついたらしく、礼が朝食のメニューをリクエストした。 「おい。何だ、そのエッグベネで……」  知己は言いかけて (いかん、また「言えない」とからかわれる!)  はたと気付き、言うのをやめた。 「うん。礼ちゃんの頼みなら、いくらでも作ってあげる。礼ちゃんは僕の天使だからねー」  将之はいつの間にか礼の隣に居て、二人同時に 「ねー」  なんて言っている。  少なからず知己はむっとして 「何だよ、それ。俺、食べたことない」  未知の献立の名を回避した発言をした。 「だって先輩、リクエストしたことないじゃないですか」 (そういう食べ物が存在することさえ知らなかったんだ)  知らなかったのだから、リクエストすることさえできない。当然だ。 「あら、それはもったいない。お兄さんのエッグベネディクト、絶妙で美味しいんですよ」  礼は絶賛する。するとますますご機嫌になった将之が 「礼ちゃんの為に、明日早起きして久しぶりに作るよー」  と言うと 「ありがとう! お兄さん」  礼がアメリカ式に大げさに喜んで、将之の首に抱きついた。あまつさえ頬にチュっとキスさえし始めた。 「な……っ!」  知己は、驚き、言葉を失った。  次の瞬間 「きゃあ!」  礼の襟首を掴むと、べりっと音を立てそうな勢いで将之から引き剥がしていた。 (え? 俺、今、何を?) 「何するんですか? 久しぶりの兄妹のスキンシップを!」  礼が抗議する傍ら、将之が不思議そうに目を丸くしていた。 「先輩?」 「うるさいな」 「まだ『先輩?』としか、言ってないですよ」  不満げに見つめる将之に、決まり悪そうに視線を外す。 「すまん。その……びっくりして。そういうの日本じゃ見慣れないもんで、久しぶりにじゃれる兄妹に無粋な真似して……、ごめん」  戸惑いつつも、心底、自分のした行為に驚いていた。 (反射的に、動いていた……)  知己は礼の襟を掴んだ手を、じっと見つめた。
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加