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「あ! 思い出した! お兄さんの好きな人だ!」
「?!」
衝撃の発言に知己は飲んでたコーヒーで咽た。
「……ぅっ、な、なに?」
ついでに心臓が飛び出しそうになった。けほけほと咽つつ、知己の体温が一気に上がる。
知己にティッシュを差し出しながら、将之が
「あー。思い出しちゃったかぁ」
はにかむような笑顔で応えた。
一方、知己は
(こいつ、笑ってごまかす気か?)
反応に戸惑っている。
礼は思い出せたことに、きゃっきゃきゃっきゃと大喜びしている。
「そうでしょ? お兄さんの高校時代の憧れの人! 部活の先輩!」
好きな人=憧れの人
礼のニュアンスに、少し落ち着くが
「せーかーい!」
将之のとぼけた態度に
「……将之……」
(こいつは、高校時代から3つも年下の妹に何を聞かせているんだ?)
ふつふつと怒りに似た感情が湧く。
「『平野先輩』ってワード。昔、お兄さんの話によく出てきたから、覚えているわ」
知己の頭の中には、この家での中位家の夕食風景。
その団らんの場で、嬉々として知己のことを語る将之の姿が浮かんできた。
礼の口振りで、一体どんな風に言われていたのか想像に難くない。
「とっても綺麗な部活の先輩」
「ふうん」
「でも、確か粗暴って言ってた」
「ほほう。(俺は『粗暴』……ね)」
思ってたよりも酷い言われように、知己は心の中でそっとメモを取り始めた。
「素っ気なくて、口下手」
「へえー」
「いつも同じ人とばっかり喋って、僕とあんまり喋ってくれないって。コミュ障なんじゃないかって言ってた」
「礼ちゃん。そこんとこ、もっと詳しく」
知己は冷静を装いつつも、頭の中では、芸能スポーツ記者さながら鼻息荒くがっつり聞く姿勢になっている。
「ああああ! 礼ちゃん、もう言わないで」
知己の冷静な様子に、静かな怒りを敏感に感じた将之がとめに出たが、記憶の蓋が開いた礼の方は止まらない。
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