夏休みが来た 2

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「あ! 思い出した! お兄さんの好きな人だ!」 「?!」  衝撃の発言に知己は飲んでたコーヒーで咽た。 「……ぅっ、な、なに?」  ついでに心臓が飛び出しそうになった。けほけほと咽つつ、知己の体温が一気に上がる。  知己にティッシュを差し出しながら、将之が 「あー。思い出しちゃったかぁ」  はにかむような笑顔で応えた。  一方、知己は (こいつ、笑ってごまかす気か?)  反応に戸惑っている。  礼は思い出せたことに、きゃっきゃきゃっきゃと大喜びしている。 「そうでしょ? お兄さんの高校時代の憧れの人! 部活の先輩!」  好きな人=憧れの人  礼のニュアンスに、少し落ち着くが 「せーかーい(正解)!」  将之のとぼけた態度に 「……将之……」 (こいつは、高校時代から3つも年下の妹に何を聞かせているんだ?)  ふつふつと怒りに似た感情が湧く。 「『平野先輩』ってワード。昔、お兄さんの話によく出てきたから、覚えているわ」  知己の頭の中には、この家での中位家の夕食風景。  その団らんの場で、嬉々として知己のことを語る将之の姿が浮かんできた。  礼の口振りで、一体どんな風に言われていたのか想像に難くない。 「とっても綺麗な部活の先輩」 「ふうん」 「でも、確か粗暴って言ってた」 「ほほう。(俺は『粗暴』……ね)」  思ってたよりも酷い言われように、知己は心の中でそっとメモを取り始めた。 「素っ気なくて、口下手」 「へえー」 「いつも同じ人とばっかり喋って、僕とあんまり喋ってくれないって。コミュ障なんじゃないかって言ってた」 「礼ちゃん。そこんとこ、もっと詳しく」  知己は冷静を装いつつも、頭の中では、芸能スポーツ記者さながら鼻息荒くがっつり聞く姿勢になっている。 「ああああ! 礼ちゃん、もう言わないで」  知己の冷静な様子に、静かな怒りを敏感に感じた将之がとめに出たが、記憶の蓋が開いた礼の方は止まらない。
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