夏休みが来た 2

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「すごいわね、お兄さん。憧れの先輩を見つけて、その上、同居って」 「え? そう?」 「ちょっとした感動ものだわ」  にっこり笑う礼を見つめつつ、知己はなにやら考えていた。 (礼ちゃんは、もしかして俺達が同居している意味を、純粋に将之が俺を慕って部屋を提供していると……?) 「さ、礼ちゃん。長旅疲れただろ? 今日は早く寝るんだよ」 「はい、おやすみなさい」  素直に礼が応じる。  大好きな兄にニコニコと手を振る礼を部屋に残し、将之と知己は二人で連れ立って寝室に向かった。 「……将之」  寝室に着くとすぐに知己は、先ほどからずっと考えていることを口にした。 「俺とお前がこういう付き合いしているのは、礼ちゃんには内緒、な」 「え? どうして?」 「礼ちゃん、あんなに楽しそうに昔の俺の話していて……。俺とお前が同居している理由を、高校時代の先輩後輩がたまたま再会して、部屋が余っているから貸しているとしか思ってないようだし。  お前、可愛い妹に心配させたくないだろ?」 「先輩と付き合うことは、心配なことですか?」  知己の心配をよそに、将之がキョトンとして尋ねた。 「普通、兄が男と付き合っていて、いい顔する妹なんて居ないよ」  そう言って、知己は寝室の自分の枕を乱暴に掴んだ。 「礼ちゃんは、グローバルな視野を持つ度量の広い()なんですが」  あまり娘に対するほめ言葉っぽくないことを将之が言うので 「とにかく、だめ。俺が礼ちゃんに嫌われたくない」  知己は別角度から説得を試みた。 「……それが本音か。礼ちゃん、美人ですしね」  卿子のこともある。  知己は美人に弱いと、将之が愚痴る。 「お前の妹だろ。そんな人に嫌われたくないよ」  知己はベッドのへりに座ると、枕を胸元に抱え込んだ。 「……なんか、一瞬、きゅんと来たんですが」  思っていたのと違う返答に将之が喜んだのもつかの間 「気のせいだろ?」  いつもの知己の返事だった。 「とにかく! 礼ちゃん滞在の一週間、(シラ)を通すぞ!」  何故か強気に言われ、 「はーい」  逆に将之は気のない返事。  それで知己は 「だから一週間、夜も別々に寝るからな」  と言い換えてみた。すると 「えー!?」  心底残念そうに将之が項垂れた。 「この(うち)、防音対策しっかりできてるんですよ」 「あのな、声が漏れなきゃいいって問題じゃねえ」 「ゲストルームと寝室、離れてますけど?」 「だから、聞こえなきゃいいって意味じゃねえってば」
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