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「すごいわね、お兄さん。憧れの先輩を見つけて、その上、同居って」
「え? そう?」
「ちょっとした感動ものだわ」
にっこり笑う礼を見つめつつ、知己はなにやら考えていた。
(礼ちゃんは、もしかして俺達が同居している意味を、純粋に将之が俺を慕って部屋を提供していると……?)
「さ、礼ちゃん。長旅疲れただろ? 今日は早く寝るんだよ」
「はい、おやすみなさい」
素直に礼が応じる。
大好きな兄にニコニコと手を振る礼を部屋に残し、将之と知己は二人で連れ立って寝室に向かった。
「……将之」
寝室に着くとすぐに知己は、先ほどからずっと考えていることを口にした。
「俺とお前がこういう付き合いしているのは、礼ちゃんには内緒、な」
「え? どうして?」
「礼ちゃん、あんなに楽しそうに昔の俺の話していて……。俺とお前が同居している理由を、高校時代の先輩後輩がたまたま再会して、部屋が余っているから貸しているとしか思ってないようだし。
お前、可愛い妹に心配させたくないだろ?」
「先輩と付き合うことは、心配なことですか?」
知己の心配をよそに、将之がキョトンとして尋ねた。
「普通、兄が男と付き合っていて、いい顔する妹なんて居ないよ」
そう言って、知己は寝室の自分の枕を乱暴に掴んだ。
「礼ちゃんは、グローバルな視野を持つ度量の広い娘なんですが」
あまり娘に対するほめ言葉っぽくないことを将之が言うので
「とにかく、だめ。俺が礼ちゃんに嫌われたくない」
知己は別角度から説得を試みた。
「……それが本音か。礼ちゃん、美人ですしね」
卿子のこともある。
知己は美人に弱いと、将之が愚痴る。
「お前の妹だろ。そんな人に嫌われたくないよ」
知己はベッドのへりに座ると、枕を胸元に抱え込んだ。
「……なんか、一瞬、きゅんと来たんですが」
思っていたのと違う返答に将之が喜んだのもつかの間
「気のせいだろ?」
いつもの知己の返事だった。
「とにかく! 礼ちゃん滞在の一週間、白を通すぞ!」
何故か強気に言われ、
「はーい」
逆に将之は気のない返事。
それで知己は
「だから一週間、夜も別々に寝るからな」
と言い換えてみた。すると
「えー!?」
心底残念そうに将之が項垂れた。
「この家、防音対策しっかりできてるんですよ」
「あのな、声が漏れなきゃいいって問題じゃねえ」
「ゲストルームと寝室、離れてますけど?」
「だから、聞こえなきゃいいって意味じゃねえってば」
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