夏休みが来た 2

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「首の皮一枚つながって良かったじゃねえか?」  高校時代の中位家団らんの話を蒸し返すと、将之が複雑な表情を浮かべた。 「いつの時代を根に持っているんですか? 美人の先輩に憧れるいたいけな高校生だったって話じゃないですか。時効ですよ、時効」 「美人って言っている段階で、悪意しか感じねえ」  知己は枕を抱えて、立ち上がった。 「とにかく、今日から俺は自分の部屋で寝る」  そう言うと 「え? マジで?」  今まで知己の会話を真面目に聞いていなかったかのような発言がなされた。 「当たり前」  憮然として知己が言うと 「せめてベッドは共にしたいんですが」  食い下がる将之。 「しないっつってんだろ?」 「領海侵犯はしませんので」 「境界線でも作る気か?」  かつて小学校の時に隣の席の子とやった謎の『境界線』を思い出した。 「……言っておくが、空中もアウトだぞ」 「うっ」  どうやらこの男。ベッドの上で空中セーフを狙っていたらしい。  ギリ20代の男たちのなんともシュールな構図を想像してしまった。 「なんか、切なくね?」  知己が言うと 「……切ないですね」  ぼそぼそと将之が肯定する。 「だったらお互いの為にも、それはやめよう」 「分かりました。僕もなんだか不毛な焦らしプレイの一環にしか思えなくなりましたし」  知己が (また何か怪しい本を読んだな)  と思いながら 「お前が何を言っているのか分からないけど、礼ちゃんに(野郎)が二人、同じ部屋で寝てるってバレるだけでNGだろ」  更に追撃を試みる。 「いや、本当。マジで別々は勘弁願いたいんですが」  まだしつこく食い下がる将之に 「礼ちゃんを悲しませたいのか?」  知己は冷静に対応した。 (なんか、俺、確実に話術スキル上がってない?)  頭の片隅で章達のことが(よぎ)る。 「うっ」  再び将之が言葉に詰まった。 (本当に、礼ちゃんを大事に思ってんだな)  珍しく知己が言いくるめるのに成功した。 「まだ客用の布団を隠していただろ? さっさと出せ」  ここまでやって、やっと、 「はーい……」  しょぼくれた返事になったので、知己は自分の本気が伝わったと安心した。
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