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夏休みが来た 3
「おはよう礼ちゃん。今日はどうするの?」
礼のリクエスト通り、エッグベネディクトを朝食に出しつつ将之は尋ねた。
「これが……エッグベネディクト」
イングリッシュマフィンに厚切りベーコンと白身に包まれたぷよぷよとした物体……多分、玉子が乗っている。
初のエッグベネディクトを目の前にして、知己は戸惑った。
(どうやって食うんだ?)
バーガーよろしくイングリッシュマフィンに上下で挟んでかぶりつくべきか考えていた所で、将之からナイフとフォークを手渡された。
(なるほど。切って食うものなのか)
知己は今、文明開化を味わっていた。
(今度、家永にも教えてやろう)
こんな食べ物、絶対に家永も知らないだろうと踏んで、勝手に仲間意識を募らせていた。
「時差ぼけもあるから、今日は家でゆっくりしようと思うの。でもせっかくの日本だし。午後くらいに、この辺もだいぶ変わったみたいだし、ぶらぶらしようかなあ」
と礼が答えた。
「明日からは博物館行ったりお買い物行ったりしたいなあ」
「博物館?」
思わぬワードに知己がズプリとポーチドエッグにナイフを刺した。
「あ、わわわ」
どろりと溢れ出る黄身に慌てる。
「平野さん、大丈夫。これってそういうものだから。切ったイングリッシュマフィンでソースごと掬って食べるのが美味しいのよ」
礼は笑顔で、知己に食べ方を説明した。
知己は人生初のエッグベネディクトを口にした。
「うま……!」
「玉子の美味しさ引き立てるお兄さんのオランデーズソースが絶妙でしょ」
「礼ちゃん……。もっと褒めて」
「やだ。めんどくさくなりそうだから、もう褒めない」
「……!?」
知己は目を丸くした。
(将之という男を初めて正しく認識している女性に会った……!)
礼が褒めてくれないので将之が
「博物館めぐりは礼ちゃんの趣味なんです。研究の傍ら、学芸員の資格も取っているんですよ」
と、ふてくされた様子だ。
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