夏休みが来た 3

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「将之。お前、どうする気? 明日、休めないんだろ?」  知己は仕事着に着替えながら、朝食の後片付けをしている将之に尋ねた。 「確かに会議目白押しで仕事はたくさんありますが……明日、僕は病気になるんです。だったら不可抗力ですよねー」  おそらく仮病という名の病にかかるのだろう。 「ダメよ、お兄さん。人に迷惑かけちゃ」  礼も言うが 「礼ちゃん。大丈夫。普段は僕が迷惑かけられている方だから、たまにはご恩返しをしてもらおう」  と将之は取り合わない。 「もう! 平野さんに付き合ってもらうからいいって言っているのに!」  誘ったものの、礼が困っているようだ。 「将之。携帯、貸して」  身支度整えた知己がキッチンに戻ってきた。 「?」  知己の携帯は充電切れかと思い、将之は 「いいですよ。カバンの内ポケットの中です」  と()()を伝えた。  知己は携帯を取り出すと、すかさず電話をかけ始めた。 「あ。後藤君?」 (後藤?)  電話の相手に、ピタリと将之が片付けの手をとめた。 『あれ? なんで中位先輩の電話で平野先生がかけてくるんですか?」 「まあ、細かいことは置いといて。  明日なんだけど、将之が病気になるとか言ってるけど、いい?」 『はあ? 何、言ってるんですか? ダメに決まっているでしょ?」 「ちょ、先輩ー! 何してくれてんですか?!」  たまらず将之が叫んだ。 『めちゃ元気そうじゃないですか。 もう、僕を揶揄ったんですね。オ・チャ・メ・さん。中位先輩にはフルで働いてもらいますので、ご安心をー』 「後藤の言っている内容に、全然、安心できないんだけどー!」  立て続けに叫ぶ将之にかまわず電話を切り、 「……以上」  知己は携帯を元通りにカバンに戻した。 「……恨みますよ、先輩」  明日罹るはずだった仮病を封じられて、将之が呟く。 「そんなに礼ちゃんと二人きりでデートしたいんですね?!」  兄バカにもほどがある。  礼は、ほっと息をつくと 「ありがとう、平野さん」  と、兄よりはいくらか常識あるようで知己に感謝していた。
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