夏休みが来た 4

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(将之のやつ、俺と礼ちゃんが一緒に居るところを卿子さんに目撃させようってハラだな……。相変わらず姑息な……)  イライラと将之のことを考えていたので 「あの。こちらの方は……?」  という卿子の問いに 「あ、妹です」  うっかり『将之の』をつけ忘れて紹介してしまった。 「妹さん……!?」  卿子がキョトンとする。 「妹の(あや)でーす」  にこやかに礼も答える。 「わあ。すごく仲良さそうだし、てっきり彼女さんかと」 「違います」  卿子に「仲良さそう」だの「彼女」だのと言われて、知己は訂正せずにはいられない。 「お二人、あまり似てないし。妹さんとは思えなくて。  あ、私、同僚の坪根卿子です」 「よろしくです」  にっこり笑う礼は、将之そっくりだ。 「そうかな? そっくりだと思いますが」  と言う知己に 「え? あ、……うーん……」  そっくり発言に対し、どうリアクションとったものか困る卿子は 「知らなかった。妹さんが居たんですねー」  と話題の方向を変えることにした。 「意外でしたか? 俺も最近、知ったんですけど」 「え?」  卿子が一瞬固まる。 (もしかして、これは……複雑な家庭事情が?) 「いや、正確にはではなく、もっと前から知ってたんだけど、実際に会ったのがでして……」  と言う知己に 「そうなんですよー」  礼が話に乗ってきた。  それで卿子は、ますます表情を硬くし (お二人、明るく話してはいるけれど……これは、深く聞いてはいけない複雑な平野家の事情だわ!) 「あ、あのっ」  慌てて、知己が説明するのをとめた。 「私はこれで。急いで『博物館名物かなり化石っぽいチョコクッキー』買って帰らないと……!」 「ん? なんか商品名変わってません?」  テンパる卿子は商品名さえあやふやになっていた。 「ああああ、『化石にかなり近いチョコクッキー』だったかしら。と、とにかくそれ買って帰ります。じゃあ、お二人はごゆっくり」  あわあわと言い終えると、エントランス横の売店へと向かった。
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