夏休みが来た 5

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夏休みが来た 5

「ここの博物館、色々と面白い物展示してて好きなんです。あの家に帰ったら必ず来るようにしているの」 (あの家……ね)  将之にだけ会いに来るという礼の言葉に、何か引っかかる。  それが何かと気付く前に、礼はウキウキとした足取りでエントランスをくぐっていた。  展示物が映えるよう当てられたスポットライトの照明と対比し、通路はほの暗かった。  広い館内をざっと見渡す。  開館直後の人数は、夏休みといえどだった。  エントランス入ってすぐの展示物は、見栄えがするよう恐竜の骨格標本が雄々しく飾られていた。わずか数段の短い階段を上がって次の展示物ブースがあり、更に上がっての行くとゾウやキリンの骨格標本が展示されている。まるで登り窯のような造りだった。  手前に古代、奥に行くにつれ現代の生き物を展示している。  真ん中貫くメインの展示物の他、いくつかある脇の小部屋には昆虫や爬虫類などが分類されて展示してある。  見上げると、天井には翼竜が翼を広げていた。 「これこれ。この博物館名物・タッチプールじゃなく、タッチ化石。もう最高にサービスですよねー!」  巨大な恐竜の骨を撫でて、礼は零れる笑みを隠せない。 「レプリカだよ」 「分かってますよ。本物は触らせてもらえないってことくらい。でも、レプリカだっていいんですよー」  ぷうっと頬を膨らませて礼が言ったが、可愛らしいものだ。 (将之と3つ違いだから、俺とは5つ違いか)  確かに、年齢の違いだけで言ったら「妹」でも通じるだろう。 (卿子さんには嘘ついてしまって、悪いことしたけど)  仕事柄学生の頃から何度も来ている博物館だったが、礼に倣って、知己も一緒に化石を撫でた。  礼と二人で化石を撫でていると、博物館の奥の方から展示してある恐竜の骨を眺めながら、一人の人物が近付いてきた。  その人物の背格好がなんとなく似ている……とは思っていたが、 (いやいや、まさかね。将之はあいつの存在を知らないはずだし。あいつまで送り込む手段があるとは思えないけど)  と知己は嫌な予感を振り払う。  その人物はおそらく手前から奥まで一周見て、改めて恐竜を見ようと戻ってきたのだろう。  タッチ化石より2mほど離れた場所に、展示物説明のためのタッチパネルが設置してある。その人物が触れた瞬間、パネルがエコモードから切り替わり、光を放ち、その人物の顔を下から照らし出した。 「あ」  思わず、知己から声が出た。
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