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「待てよ。俊也が居るってことは……」
ある疑惑が浮かぶ。
「当然、敦たちも一緒だ。
俺は恐竜でレポート書くつもりだけど、あいつらは、もいきーなので書くってさ。俺は付き合えないんで、今は別行動。昼に落ち合う予定」
それを聞き、知己はすかさず礼に向き直った。
「そうか。帰ろう。礼ちゃん」
帰宅を全力で勧め始めた。
「え? やだ! 来たばっかなのに」
「敦たちに絡まれる前に帰ろう」
「絡まれる?」
礼の想像の中では、アロハシャツの前を全開にし、アリエナイ鋭角の眉がちょっとだけの目の座った怪しい男が、ガニ股気味のサンダル履きで「焼きそばパン買ってこいよー」と言いながら博物館奥より歩いてくる立体映像で再生されていた。
礼の『絡まれる』行為は、どうやら9年前から更新されていない。
「主に先生が」
と丁寧に俊也が付け足した。
(平野さんが、絡まれる……)
その瞬間、立体映像の男たちが知己の胸倉掴んで「先生、焼きそばパン買って来いよー」の映像に切り替わった。
「私に実害ないならいいじゃない。焼きそばパンくらい買って来なさいよ」
1ミリも悪びれずに言う辺り、間違いなく将之の妹だと感じる。
「礼ちゃんの言っている意味が分からないけど、君にも被害が及ぶかもしれない連中だ。からかうレベルでいったら俊也の比じゃないからな」
「そんなにたちが悪い人なの?」
なにげに俊也はディスられた気がして「ん?」と首を捻った。
「そうだ」
迷わず知己は肯定する。
「お兄さんと、どっちがたち悪い?」
「それは難しい質問だな」
将之を的確に評価する女性の質問に、知己は真剣に返答に困る。
「とても教え子に対する言葉じゃねーな……。それ、敦の前で言うなよ。言ったら、また臍曲げるぞ」
「そ、そうだな。すまん。忠告感謝する」
さすがに言い過ぎたかと知己は反省した。
知己に感謝されて俊也は気をよくした。
「それに章も……」
「章も?」
「……章は、……喜びそうだなぁ」
俊也は思ったままを口にした。
「やっぱり帰ろう。たち悪すぎる」
礼の肩を掴んで回れ右をさせ、今、入ってきたばかりのエントランスに向かう。
あくまでも博物館のエントランスであって出口ではないのだが、頼めばなんとか出してくれるだろう。
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