夏休みが来た 5

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 そんなことを考えていたら、俊也が気を回して 「ちなみにあいつら、最近公開されたリュウグウノツカイの剥製の所で止まってた」  と教えてくれた。  現代の生き物の展示室は、剥製が多い。そのため吹き抜けの骨格展示とは異なり、館内最奥の特別室で展示され、ガラスケースの中で温度湿度を完璧に管理されている。    なるほど。今帰ったら、会わずに済む。 (リュウグウノツカイ? あのにょろんと長い銀色の深海魚だろ? 全くあいつらどういうセンスだよ?)  知己が心の中で突っ込んでいると 「いやぁ!」  突如、礼が叫んだ。  学芸員の資格も持つ博識の礼だ。  リュウグウノツカイのなかなかにグロテスクなヴィジュアルも、もちろん知っていたのだろう。 「リュウグウノツカイ! 見たい!」 「……」 (……だよねー)  知己は目を伏せた。  レプリカの恐竜の骨をあれほど愛でる礼だ。  リュウグウノツカイを見たくないわけがない。 (せっかく、帰りかけてたのに……)  ジロリと俊也を睨むと 「なんだよ、親切に教えてやっただけなのに!」  礼の反応に驚きつつも、俊也は心外だと言わんばかりだ。 「やだやだやだやだ! 帰らない! Time is money.だよ!」  礼はジタバタと抵抗した。  確かに一週間……いや、残り4日しか滞在しない礼にとって、貴重な時間だ。 「……分かった。博物館見学は続けよう。だけど、あいつらが居ないのを確認してからにしような」 「もー、面倒ね」  帰るのだけはなんとか阻止できたが、やはり礼は不満げだ。 「俊也」  念のために知己は声をかけた。 「何だよ?!」 「あいつらに俺がここに居ることをLIN〇送ったら、お前と口きかないからな」 「え。……ごめん」  思わず謝った所を見ると、送る気満々だったらしい。胸ポケットに指をかけて取り出そうとしていた携帯から、そっと手を離した。
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