夏休みが来た 6

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 二階展示場上がってすぐの広間にはレプリカの土器が、出土されたバラバラな状態で展示。博物館の趣向でそれも触って良いものだ。小学生くらいの子供がレプリカ土器の組み立てに挑戦していた。  広間の奥にはいくつかの部屋に分かれ、時代ごとの展示物が陳列されていた。 「あれ、昔からあるのよね。私も子供の頃に挑戦したわ」  レプリカ土器の組み立てを懐かしそうに礼が眺める。  一瞬暗い影を宿した瞳で、ふふっと笑ったかと思ったら 「私よりも何にも考えていない将之お兄さんの方が上手だったの。……悔しかったわ」  と知己に恨み節を聞かせた。 (懐かしい思い出話かと思っていたら……)  さっきの笑いは幼い頃を思い出しての懐かしい笑みではなく、自嘲だったようだ。  知己は残念に思った。 「ほら、順番に見ていきましょうよ。こっちの古代刀。古墳時代のモノよ。この辺り、銅剣がよく出土しているものね」  今度はガラスケースの中の、古びた剣を熱く眺めた。 「詳しんだな」  知己が答えると 「転勤族だけど、なんだかんだでここが一番長く住んでいるもの」  そういえば、将之も似たようなことを言ってた気がする。  今は東京に拠点を移したが、ここは父の地元。元々はここで政治活動を展開していて、何度も来ていると。 「この時期はまだ『反り』はないの。刀に反りが出るのは、騎馬を用いて戦をするようになった時代からなのよ」 「へえ」 「ふふふ、この出土場所を書いた紙・・・○○付近ってなっているじゃない」 「うん」 「詳しく書くと、まだ何か埋まっているんじゃないかって堀りに行く愚かモノが居るから、その対策なのよ」 「……あ、そう」 (やっぱり残念なオチだった)  学芸員としての知識もあるのだろうが、いちいち残念な話になるのも、中位家の血筋なのだろうか。 (将之も大抵、自己中で残念な話しかしないしな)
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