夏休みが来た 6

3/7
前へ
/778ページ
次へ
「礼ちゃんの専攻は、ロボット工学だろ? だけど、生き物や出土品にも詳しいんだな」 「好きだからね。とどのつまりは造形美が好き」  眼は銅剣に釘付けのまま礼が答えた。 「造形美?」 「進化してのカタチが洗練されて行く過程を考えるとロマンを感じちゃうの。リュウグウノツカイは深海に住んでいるからそれに見合った形。古代刀もそう。時代や用途、住処に合った形を取っている。  ロボットってその最たるものじゃない? だからロボット工学やって、より時代に合ったモノを作りたいなって思っているの」  知己の頭の中では到底結びつかないが、礼の中では「造形美」としてリュウグウノツカイも古代刀もロボットも同じ線上にあるらしい。  納得いかない様子の知己に 「アジノモトって知ってる?」  と礼が訊いた。 「唐突だな。知ってるけど」 「あのボトルの穴誕生の話なんだけど。  最初穴がなく、入れ物から蓋を開けて小さじで掬ってたものを、手間を省いて機能的にするためにボトルに穴をあけて振り入れる形にしたの。でも、穴は最初1個だったので量があまり出ない。それで今度は穴の大きさと数を変えて、ちょうどいい量が出るようにしたの。  これってすごくない? 時代に合わせての人の工夫と変化」 「その話は知らなかった……けど、それも礼ちゃんの言う『造形美』なのか?」 「そう。そんなロボットを作りたいのよね。試行錯誤を繰り返し、より時代のニーズに合った形のロボットを」  礼は、銅剣の隣のガラスケースに移動し、次は銅鏡の破片を眺める。  出土された古鏡を前に 「その為には面倒なC言語だって、やってみせる」 「C言語?」 「パソコン用の言語って言ったらいいかな? 私もよく分かんないんだけど、ロボットのプログラム入力に必要なの。私、C言語は苦手で嫌いなのよ。面倒なんだもん。でも、仕方ないよね」 「何が?」 「相手はロボットなんだもん。人間の言葉が分かるわけないから、C言語でロボットに分かるように話すしかないよね」  よく分からずに研究するのもいかがなものかと知己は少し思ったが、面倒だと言いながらも「やってみせる」という礼の逞しさは見習いたいものだ。さすが、単身アメリカに旅立っただけのことはある。 「ふうん。いい夢だね」  知己がそれとなく言うと、おもむろに礼が出土品から知己に視線を移した。 「……そう言ってくれるの、平野さんで3人目」  少し照れたように笑う。
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

243人が本棚に入れています
本棚に追加