夏休みが来た 6

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(これは、絶対にバレちゃダメのパターンだ!)  努力目標だと思っていたものが、必要不可欠な事案へと進化した瞬間。  目の前が暗くなり、将之にすぐにでも (礼、キケン。絶対にバラすな)  とメールを打ちたい気持ちに駆られる。 (伏せといて良かった……)  出会って、3日。 (残り、4日……。なんとか誤魔化そう)  知己は礼にばれぬよう、こっそりと息を吐いた。  アメリカで培ってきたのもあるだろうが、礼は物おじせずに言いたいことをハキハキと言う。もしかしたら、15歳まで父の言いなりに転校を繰り返してきた反動もあるのかもしれない。  礼が感情のままに一気にまくし立てたものだから、広場で土器組み立てパズルに挑戦中の子供が手をとめ、何事かとこちらをじいっと見ている。  知己の気まずそうな視線の先を探り、唖然としている子どもに礼も気付いた。 (ちょっとヒートアップしちゃったかしら)  場所柄騒いでしまったことを少しばかり反省しつつ、そ知らぬふりで次の展示物へと礼は歩き出した。 「でもね、後悔はしてないの。彼を好きになって良かったって思っている」 (その割には、めちゃくちゃ怒ってたよな……)  礼が突きまわしたガラスケースが無事なのを確認すると、知己も礼に倣って歩いた。 「私、末っ子の女の子でしょ。誰からも好かれるのが当たり前だと思っていたから。誰かを好きになるって気持ちを知らずにいたから」 「なんで俺だと話していいって思った?」 「うん。それはね。知己お兄さんなら、私の話を笑わずに聞いてくれそうだったから」 (そうか。誰にも言えなかったのか)  明朗快活な礼に、こんな一面があったとは。 (礼ちゃんも24歳って言ってたもんな。そんなこともあるか)  礼は、次の甲冑の展示物ケースの前で、くるりと後ろに続く知己の方を振り向いた。  先ほどの形相ではなく、もう、いつもの礼に戻っていた。 「誰かに聞いてほしかったのもあるけど……。知己お兄さんは、あの同僚さんが好きでしょ? だから、私の気持ちを分かってくれると思って」  ウィンク交じりに言われると、いろんな意味で知己は動悸が治まらない。
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