悪名高き八旗高校 3

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「溶液1L中の溶質の量を物質量で表したもの、これを何というか?」  生徒たちは聞きなれぬ言葉の連続に、もはや「先生、ナニ語喋っている?」みたいな感じで、呆然としていた。  その反応に (あ、しまった。またいつもの癖でヤっちまった……。教科書通りに話すと、こいつらに合わないんだったな……)  知己は慌てた。  「すまん。言い方、替える。えっとな……例えば水1Lの中に塩などの物質を溶かすだろ? あれをイメージしてくれ。その時の溶けている物質量の単位を何と言うか? だ」  それでも生徒達にとっては、雲掴む話のようだ。  それでやむなく 「ヒントは、な……」  とヒントを出すことにしたのだが。知己の中では、さっきので精一杯。これ以上かみ砕いて伝えるすべはなかった。  それで出したヒントは 「最初の文字は『モ』」  もはや、なぞなぞレベルだ。  だが、そこでやっと生徒が反応した。 「モノミリグラム」 「そんな単位は、ねえ」  単位と聞いてそれっぽいものを答えてきたが、知己も大喜利みたいな授業を重ねて既に3週間。すっかり司会っぽいものが板についてきた。また普段、将之のまったく人の話を聞かない会話が役に立っているというのもある。この2年間で、無駄にツッコミスキルだけは上がっていた。  それに全員というわけではないが、知己の授業が何を言っているのか分からないなりにもなんとかしようとする生徒に好感はもてる。まるっきりやる気がないわけではない。  知己は挫けずに、次のヒントを出した。 「次の文字は……『ル』」 「あ、分かった!」 「須々木、頼むから手を上げて発言してくれ」 「カー!」 「そんな可愛いものでもねえ……」  言いながら、思わず目頭を押さえてしまっていた。  結局、 (あぁ、これは答えが出ないパターンだ)  と知己は諦め 「答えはモル濃度。テストに出やすいから、覚えておけ」  というやり取りがあった。  茶髪に細目の須々木俊也(すすきとしや)は果敢に挑んでみたものの、残念ながら不正解に終わっていた。
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