夏休みが来た 7

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「だいたい先生、酷過ぎぃ。どうして俊ちゃんには会っても、僕らにはこんなコソコソ逃げ隠れするようなマネするの?」  章が唇を尖らせて言う。 「お前らが、俺にこんな絡み方するからだろ?」  俊也の予言通り、めでたく知己は章達に絡まれることとなっている。ついでにいえば、知己の予想通り、被害は礼にまで及んだ。 「でも、先生にはお金たかったりしないよ」 「最初から、うなるほど持っているお前らにたかられるとは思ってない」  梅ノ木グループ三男坊が、そこで「ふふん」と鼻で笑った。  そこで、ふと知己に疑問が過る。 「あれ? じゃあ、二年前にたかってたのは何でだ?」 「受験への不安とストレス発散……かな? 僕ら小心者だから、受験が怖くて、誰かに当たらずにはいられなかった」  悪びれずに章が言うと 「自己中な理由だ」  知己は頭を抱えると同時に納得していた。 (道理で門脇をリスペクトするわけだ)  彼らのやっていたことは、理不尽な理由で暴力をふるった門脇となんら変わりない。 「僕らはしてないけど『万引き』とかも、そうじゃないの? 大抵、自分の心満たすためにやってると思うな。詳しくはないけど、本当に生活のためにやっているのは一部じゃない?」 「じゃあお前らは、なんで万引きはしなかったんだ?」 「モノは、それこそ唸るほど買い与えられていたからね」 「こそこそ盗み働くより、人を怯えさせる方が面白いじゃん」 (過程の違いかよ)  最低な理由に、知己は更に項垂れた。 「お前ら、いつか警察に突き出されるぞ」 「今はしてないよ。それにもう2年も前のことだから時効」 「時効は、そんなに短くないぞ」 「でも、証拠らしい証拠なんて残ってないもんねーだ」  敦が、あっかんべーとして見せる。 (あ゛ー、ほんっとぅにめちゃくちゃ可愛い教え子だよなぁ)  と、知己がうんざりしていると 「やだ。面白い。犯罪心理学は専攻の範囲外だわ」  礼が興味津々で、自分から話に入ってきた。 「礼ちゃん。多分だけど、聞く価値はないと思う」  これ以上、礼に妙な扉を開かせてはならない。兄・将之が悪い手本だ。 「実はね、さっき早々にレポート書き終えた俊ちゃんが、昼を待たずに僕たちの所に来たんだ」  章が、ずっと後ろにいる俊也の背を押して、知己の前に突き出した。 (情報源は俊也……。当然だな)  釘を刺しておいたはずだが……と、じろりと俊也を睨む。
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