夏休みが来た 7

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「妹さん、気が合いそうですね」  言論が母の武器なら、ニコニコと一見人懐っこく愛らしい笑顔は章の武器だ。 「え? 本当?」  取り乱していたはずの礼にも笑顔が戻る。 (あ……)  礼の笑顔を見て、知己は察した。 (さっきのは、多分、演技だ)  100%そうだとは思えなかったが、きっと兄妹疑惑の追及を巧く逃れようと、取り乱した風を装ったのだろう。あれも必殺・妹スキルの一環だったかもしれない。 「父親なんて、エゴで自己中で、自分のことしか考えてない図体の大きな子供ですよ」  章のことだから、全部同じ意味と分かってて言っているのだろう。  さっき自己中な理由で中3までたかりの常習犯だった人間の言う事かとも思ったが、まあ、こんな章だから自分のことは棚に上げて、平気で父のことを悪しざまに言えるのだろう。  心の中に自分を置ける棚を持つ男・章と演技派妹属性女優・礼は、意外にも気が合った。 「……おそらく、後20年もすればお前も父親になってると思うけど」  ぼそりと知己が言うと 「僕は、ならない。どっちかと言うと母親になる」  耳聡く聞きつけた章が切り返した。 「どうやって?」 「うーんと、母親の存在? みたいな?」  売り言葉に買い言葉的な。なんとなく勢いで言っただけのようだ。 「好きにしろ」  本人も分からないようなので、 (もう、好きに語らせよう)  と知己が心の中で白旗を振った。  章の発言を聞きつけた敦が 「じゃあ、俺が父親になる! 章、俺と……」  と言うまでは。 「ん?」  礼が首を傾げた。  その瞬間 「敦! 気安く二個目の地雷を踏み抜くなー!」  慌てて、「どうぞ。ご勝手に」と心の中で振ってた白旗を投げ捨て、知己が小さな敦に覆いかぶさり、それ以上を言わせなかった。 「ん! んぐぐぐぐ……!」  突然のことに、知己の胸の中で敦が苦し気に唸った。
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