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「妹さん、気が合いそうですね」
言論が母の武器なら、ニコニコと一見人懐っこく愛らしい笑顔は章の武器だ。
「え? 本当?」
取り乱していたはずの礼にも笑顔が戻る。
(あ……)
礼の笑顔を見て、知己は察した。
(さっきのは、多分、演技だ)
100%そうだとは思えなかったが、きっと兄妹疑惑の追及を巧く逃れようと、取り乱した風を装ったのだろう。あれも必殺・妹スキルの一環だったかもしれない。
「父親なんて、エゴで自己中で、自分のことしか考えてない図体の大きな子供ですよ」
章のことだから、全部同じ意味と分かってて言っているのだろう。
さっき自己中な理由で中3までたかりの常習犯だった人間の言う事かとも思ったが、まあ、こんな章だから自分のことは棚に上げて、平気で父のことを悪しざまに言えるのだろう。
心の中に自分を置ける棚を持つ男・章と演技派妹属性女優・礼は、意外にも気が合った。
「……おそらく、後20年もすればお前も父親になってると思うけど」
ぼそりと知己が言うと
「僕は、ならない。どっちかと言うと母親になる」
耳聡く聞きつけた章が切り返した。
「どうやって?」
「うーんと、母親の存在? みたいな?」
売り言葉に買い言葉的な。なんとなく勢いで言っただけのようだ。
「好きにしろ」
本人も分からないようなので、
(もう、好きに語らせよう)
と知己が心の中で白旗を振った。
章の発言を聞きつけた敦が
「じゃあ、俺が父親になる! 章、俺と……」
と言うまでは。
「ん?」
礼が首を傾げた。
その瞬間
「敦! 気安く二個目の地雷を踏み抜くなー!」
慌てて、「どうぞ。ご勝手に」と心の中で振ってた白旗を投げ捨て、知己が小さな敦に覆いかぶさり、それ以上を言わせなかった。
「ん! んぐぐぐぐ……!」
突然のことに、知己の胸の中で敦が苦し気に唸った。
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