夏休みが来た 7

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「何、そのハグ?!」  礼の美しい眉がきゅっと吊り上がり、眦がぴくついた。まるで忌々しい物を見たかの反応だ。  今度は知己が礼の地雷を踏み抜きかねない行動だったが、すかさず章が 「熱き教育の抱擁だね! 先生、分かるよ! 僕にもしてっ!」  両手を広げて、ウェルカム状態で叫んだので、なんとか礼の地雷は踏まずに済んだ。  知己は、モガモガと胸元で窮屈そうに暴れる敦をがっちりかかえたまま 「しないっ!」  と答えた。 「俺は……遠慮しておく」 「だから、しないってば!」  何故か悔しそうにする俊也にも即答していた。 「息ができない! 離せ、この変態教師!」  敦が知己を引き離した時には、もう知己の教育上のスキンシップなど関心の外。すっかり意気投合した章と礼が「生体不明の深海魚」だの「人魚のモデル」だの「自切して身を守る」だの、熱くリュウグウノツカイについて語りあっていた。 「章ー!」  敦が叫ぶように呼ぶが、章は 「いや、妹さんの話が面白くって……」  すっかり礼の話に夢中だ。 「君、見どころあるわ。アメリカ来ない? スミソニアン博物館に君の好きそうなもの、いっぱいあるわよ」  礼が誘った。 「嬉しいなぁ。機会あったらぜひ」  章が得意のセールスマンスマイルで応えると 「いい子ね、知己お兄さん!」  キラキラした目で、礼が知己に同意を求めた。 「アー。ソウ……?」  やはり知己には中途半端な返事しかできなかった。 (これまでのやり取りのどこにいい子要素があったかな?)  知己には到底分からなかったが、礼が喜んでいるのなら (まあ、いいか)  と思った。  一方、俊也は (これだけ騒いでて、俺達がつまみ出されない理由は、敦にあるんだろうな)    と、博物館設立の石碑に「寄贈・梅ノ木グループ」の文字があったのを思い出していた。 【挿絵を上げました。】ハグの日 https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=381
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