夏休みが来た 8

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夏休みが来た 8

「何ですか? この光景……」  将之が家に帰ると、知己の部屋に入りびたり礼が楽しそうに笑い声をあげていた。 「あ、お帰り。将之」 「おかえりなさい、お兄さん」  同時に飛び出す二人の明るい声とは真逆に、将之はますます暗い表情だ。 「……いいんですよ、別に」  廊下にカバンを置くと、上着を脱ぎながら将之も知己の部屋にずかずかと入ってきた。 「何が?」  知己が訊く。  机の上には仕事用のノートパソコンが広げられている。大方、二人でネットを眺めて語り合い、楽しんでいたのだろう。 (礼ちゃんは元々対人スキル高い子だったけど、あのコミュニケーション下手な先輩がここまで打ち解けるのは珍しいな)  生物学教師と、学芸員の資格もつ礼。意外にも共通の話題は多かったようだ。 (らしい時間の過ごし方だな)  と将之は密かに思った。  だけど、フツフツと怒りが湧く。 (元はと言えば、先輩が)  後藤に電話し、仮病封じをされたことも思い出していた。 「人が休みを取るために、一生懸命明日の分まで働いてきたっていうのに、二人して仲良くきゃっきゃきゃっきゃと」 「仲良しっていいんじゃないの?」  礼がピュアな瞳で訊くと 「違う!」  将之が即答した。 「だから、何が?」  またごねているなと知己も分かった。  ほっておきたい所だが、この場合、ほっておくと余計に拗ねて面倒になりかねない。 (嫌だけど、適当に相手しよう)  知己は覚悟を決めた。目標は「風に揺れる柳の葉のごとく」だ。 「これは僕の理想と著しく違う! 僕の理想は、二等辺三角形の頂点!」  将之は両手の親指と人差し指を付けて文字通りの二等辺三角形を作って、二人の目の前に差し出した。 「?」  二人して難色示すと、将之は、まず右手の方を一瞥し 「僕が礼ちゃんと仲良くしたら、先輩が拗ね」  次に左手を見る。 「僕が先輩と仲良くしたら、礼ちゃんが拗ね……っていう三角を想像していたのに」  頂点のはずの人差し指を弾くように外し、今度は両手の親指をくっ付けたり外したりを何度も繰り返し始めた。 「だのに、なんなの? 何故この一辺が極太に強化されているの?」  知己たちには見えない線が、将之には見えているようだ。
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