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「なんなの、このハズシ状態は!? なんで先輩と礼ちゃんばっか仲良くなって、僕はハブなの?! おかしくない?」
「ハブ? 毒蛇?」
生き物大好き・礼の目が瞬時に輝く。
「そのハブと違う!」
礼は多分、ツッコミ待ちのボケで言ったのだろう。その証拠に将之に突っ込まれて、嬉しそうにきゃっきゃと笑っている。
中位兄妹のレクレーションは、ほっといても良さそうだ。
「まあまあ、将之。そう荒れるな。残業頑張って、お前、疲れているんだろ? だからそんなに怒りっぽくなって。お腹もすいているんだろ?」
ここで知己は、将之の機嫌を取るとっておきの一手を出すことにした。
「え? あ、それはまあ。時間も時間ですし」
時刻は19時を過ぎている。将之が「明日の分まで仕事」と頑張った為、いつもの夕飯の時間はとっくに過ぎていた。
ただ、この会話を切り出したのが知己なので、将之のこめかみに冷汗が流れた。どこかで死亡フラグが立った音も聞こえた気がした。
「安心しろ。夕飯、作っといた」
「先輩が? もう、その段階で安心できない」
予感的中。
「酷いわ、将之お兄さん」
「作ったのは礼ちゃんだよ」
「え? マジで? 嬉しいな!」
からの、掌返し。
「それはそれで酷いな。将之」
分かっていた反応だが、地味に知己は傷ついた。
「だって、すぐに分かったもの。知己お兄さん、料理のセンスの塊だって。だから食材全部取り上げて、私が作ったのよ」
「礼ちゃん、グッジャブ!」
聡い妹の発言に一瞬喜んだが、朝の言葉の変化に将之が気付いて、またもや顔色を変えた。
「ん? 今、『知己お兄さん』って……?」
「成り行き上だけど、礼ちゃんは俺の妹なんだ」
今日は、何度も助けられた礼の言葉だった。
今となっては、すっかり知己の耳に馴染み、むしろ「平野さん」と呼ばれると落ち着かない。
嬉しそうに語る知己に、
「知己お兄さん、大好き」
礼が腕を組んでじゃれる。
「うぐぐー! 嫉妬しかないー!」
それを見て、将之は唸るしかなかった。
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