夏休みが来た 8

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「……というわけだから、礼ちゃんに俺達の関係は絶対に秘密。いいな」  10分ほど前に礼は風呂に行った。  知己と将之は二人、食後のコーヒーをソファーで飲みながらリビングで今日の話をしつつ、風呂の順番待った。  L字に配置されたコーナーソファの短い部分に将之。長い部分に知己が座す。 「……」 「最重要課題」に昇格した当初の目標をいまだに受け入れがたいのか、将之はさっきから黙って考え込んでいる。  会話する相手が黙っているので、必然と知己は暇になった。  コーヒーを啜り、ふと (そういえば、将之が座っている所……)  夕食を作っている時の礼の視線を思い出した。  リビングと対面のキッチン。そこで夕食を作りながら、礼は時々顔を上げてはカウンター越しにソファの一角をうつろな瞳で眺めていた。 (疲れているのかな?)  と、思ったが、あまりにも同じ箇所を見つめては、我に返ったように視線を手元に戻す。おそらく無意識だろう。それを数度繰り返していた。 (昨日、一昨日、こんなことしてたっけ?)  気付かなかっただけかもしれないが、知己は違和感を感じていた。 「お前の座っている所って、なんか意味ある?」  あちこち転居を余儀なくされたが、通算するとここが一番長く住んでいると言っていた。  何か思い出があるのかもしれないと知己は将之に訊いてみたが 「え? いえ。特にないと思いますが」  将之は知己の突然の質問の意味が分からず、キョトンとしたまま答えた。  そしてまた、思考の続きに戻った。 (きっとまた、いろんな難癖つける気なんだろう)  知己は身構えていたが、 「分かりました」  意外にもあっさりと将之は承諾した。  重要さは増したものの、一昨日の約束を再度確認した形だからだろうか。 (……もっと、ごねるかと思っていた)  あまりのあっけなさに肩透かし食らわされた気分だ。  だけど将之の顔は深刻さを滲ませているから、本当に理解したと思いたい。 「ちょっとアメリカ、行ってきます」 「なぜ、そうなる?」 「礼ちゃんを振るなんて、許せません。ちょっと行ってきて、色々と思い知らせてきます」  なるほど。  こうなるから、礼は将之には言わなかったんだな。
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