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「嫌いなら、無視すればいいのに」
柵にもたれかけてた少年、吹山章が言う。
「だってさ、答えるとあいつの反応、いちいちおもしれーんだもん。クラスのやつらもそれで答えてやってるんだぜ」
堪えきれずに笑ってしまった俊也に
「でも、さ。それで俊ちゃんが実は可愛いもの好きって、みんなにバレちゃったじゃない。それはいいの?」
章が尋ねた。
「よくねーよ! だから、平野は嫌いなんだってば!」
これまで隠してた可愛いもの好きもバレて、俊也は柄にもなく真っ赤になっていた。
「偉そうに色々質問してくるし」
「教師だからね」
「上から目線で『ヒント』とか、言いやがるし」
「教師だからね」
「正解だせないと、『残念』って感じで嫌ーな溜息つきやがるし」
「教師だからね」
飄々と同じ言葉を繰り返す章に、
「章! お前、どっちの味方だ?!」
と怒鳴れば
「あはは、僕は俊ちゃんの味方に決まっているだろー?」
軽く答える章だった。
「でもさ、あいつ、最初の頃と違って僕たちでも分かりやすいように言い換えてるから、面倒だけど悪いヤツには思えなくて。やー、4月の初めの頃は何言っているのか、さっぱりだったもんね」
章の賞賛の言葉に、俊也が驚いた。
「章は……、まさか、あいつのこと好きなのか?」
「特別教室棟にばかりいるのはやめてくれって思うけど嫌いじゃない。方向性はどうかと思うけど、あいつ、僕らに合わせて授業してるのかな? って思えたから、さ」
「俺は逆にそういうとこが嫌いなんだよ。なんか恩着せがましく感じて。教師ならそうするのがアタリマエだろ?」
すると章は、ふふっと意味ありげに笑った。
「そう? でも、あいつ。俊ちゃんと同類じゃん」
「は?」
嫌いな平野知己と同類と言われて、俊也の米神がピクリと動いた。
「どこが?」
「分かんないの? だから、俊ちゃん、頭悪いって言われるんだよ」
「あぁ、そ! 章は頭いいから、な!」
「もう。そんなことでひねくれるなよ」
すっかりふて腐れた俊也を、まあまあと宥め
「いい? 『モルカー』を『可愛い』と分かっているのなら、平野もモルカー好きなんだよ。分かんない?」
と章は説明をした。
「……そうなのか?」
説明されても、いまだ合点がいかず俊也は首をひねった。
「そうだよ。だって、僕も俊ちゃんに勧められるまでは『モルカー』の存在も知らなかったんだから」
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