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夏休みが来た 9
「ただいまー」
疲れている中にも嬉しそうな弾んだ声の礼。それと、多分、礼の買ったものだろう。大小さまざまな荷物を抱えて、将之も後に続いて帰ってきた。
「……おかえり」
知己も今日は勤務。先ほど仕事から帰ってきたばかりだ。
(卿子さんに博物館までわざわざ茶菓子を買いに行かせた奴は、こいつではなかったな……)
予定通りに今日、教育委員会の者は視察に訪れた。生憎と、知己が理科室にいる間に来て用を済ませると早々に帰ったようだ。委員会の相手は、教頭・校長が行い、知己が姿を見ることはなかった。
(まあ、多分、こいつの部下かなんかだろうけど)
校長が「そんなにお好きなら」と土産にも「たぶん化石っぽいクッキー」を持たせたと、卿子は言っていた。
「楽しかったー! 昨日よりもいっぱい歩いたー!」
心地よい疲労なのだろう。24歳の礼はたくさん歩いたというのに満面の笑みだ。
そんな礼を気遣って、将之もたくさん歩いただろうに
「すぐお風呂の準備をするね」
買った荷物を置くと、風呂場へと直行した。
礼と将之は、今日は二人でモールへと買い物に行った。
礼が「戦利品」とばかりにニコニコと満足そうに買ったものを並べ、知己に見せる。礼が気に入っているコスメや服、靴……確かにアメリカでは手に入れにくい。今やネットの時代だが、靴は注文してサイズが微妙に合わずに後悔した経験があったので、知己には納得がいった。
「……何、これ」
その中の怪しげな白い粉の大袋を前に知己が戸惑う。
よくTVの報道特番で見たり、ニュースで「押収されました。末端価格○億です」とか取り沙汰されているアレに、めちゃくちゃよく似ている。
「アジノモト詰め替え用」
ニコリと笑う礼。
「え? 礼ちゃん……?」
瓶の形状を熱く語っていたが、まさか中身も大好きだったのか。
「知己お兄さん、知ってます? アメリカの食事って日本ほどアミノ酸入ってないんですよ」
「……聞いたことはある。アミノ酸漬けの食生活している日本人に耐えがたいって」
だが、詰め替え用にしてもこんな大袋、見たことない。
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