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「他に何か買ったのか?」
「うん。えーっとね」
礼が大袋からゴソゴソと探す。
「?」
「はい。知己お兄さんに、これ」
礼から手渡されたのは、小さな紙袋。
ブランド名のついた紙袋の中を知己が覗くと、青と銀の細いリボンで結ばれた小さな箱があった。
「お留守番、ご苦労様ー」
知己へのプレゼントだった。
「気を遣って、私とお兄さんの二人きりにしてくれたんでしょ? ありがとう」
無邪気な笑顔を向けられて、知己は赤くなって、顔を背ける。
「気なんて遣ってないないよ。将之がうるさいからだよ」
「嘘」
「本当。博物館のことをいつまでもグチグチ言うから」
実際にグチグチ言われてた。昨日からずっと。今朝も出かける寸前まで、両手の親指を付けたり離したりを繰り返すあのポーズと共に。
「うふふ。いいわよ。そうしておいてあげる」
「だから、これはもらえないよ」
まだ院生である礼がこれだけの買い物したら、大した出費だ。その上、知己へのプレゼントなど、とてもじゃないがもらえないと思った。
「そう言わないで、開けてみてよ」
礼があまりに勧めるので、知己は封を解いた。
金属が上品に輝く先端に、四葉のクローバーを彫ったネクタイピン。
「礼とお揃いって言っても?」
礼は、ちらりといつもつけている金鎖のネックレスを見せた。
「……」
ネックレスには、昨日はついていなかったネクタイピンと同じモチーフの飾りが通されていた。
「知己お兄さんには、幸せになってほしいから」
(……には?)
「あの人とうまくいきますようにって願ってる」
初恋から4年。それからまだ良い出会いがないのだろう。
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