夏休みが来た 9

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 知己が顔を上げると礼の背後で二人の様子を見ている将之と目が合った。  礼の肩越しに見える将之は微妙な顔をしている。  なにせ礼の言う通り、あの人=卿子とうまくいくと、もれなく最愛の兄が悲劇に見舞われる図式だ。 (だけど、礼ちゃんの気持ちは嬉しいな) 「礼ちゃん……、もらうよ」  大事そうにネクタイピンを手のひらで包むように知己は受け取った。 「うふふ、ありがと」  嬉しそうに笑う礼に 「それは俺のセリフ。ありがとう」  と知己も(れい)を言う。 「あ。もしかしたらコロンの方がよかったかしら?」  礼から、ここで加齢臭疑惑が再び飛び出した。 「礼ちゃん……、それは」  知己が返答に困っていると 「僕が『それは必要ない』って止めたんですよ」  原因作った男が、誇らしげに何か言っている。 「私もそう思ったの。だからタイピンにしたのよ」  礼がくれる物なら、知己はなんだって嬉しいとは思うが、きっと香水だったら微妙な気持ちが少し混じっただろう。 (たまにはネクタイ付けて仕事行こうかな)  研修・出張以外は、万年クールビズのウォームビズに白衣をひっかけるだけの知己だが、礼からの贈り物を普段から使いたいと思った。 「ちなみに僕も同じネクタイピンを買いました」 「あ、あっそ……」  やはり微妙な空気が流れた。  礼が 「お兄さん達、ちょっと来て」  知己と将之を手招きする。 (なんだろ?)  と礼に近付くと、不意に礼が強引に腕を組んできた。  左に知己、右に将之。  礼を挟んで、円陣組むかのように三人が並んだ。 「みんなで幸せになりましょ」  その真ん中で礼は嬉しそうに、将之と知己の顔を交互に見て言うのだった。
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