夏休みが来た 9

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 今日は将之も歩き疲れたので、モールで買った総菜で夕飯にした。  パックのままを出すのはNG。手間でも一度盛り付けるのが中位家のやり方らしく、労力厭わず礼も将之と共に買ったサラダや惣菜を皿に移していく。  だけど、やはり礼はふとした瞬間に手を止め、リビングのソファの一角を見つめていた。  昨日の今日だ。さすがに将之も気付いたようだ。 「先輩。僕も今日は分かりました」  今日も礼が先に風呂を使った。  将之がコーヒーを用意する。  コーヒーが入るまでの間……つまり礼が完全に風呂に入るのを待って、将之は知己に話しかけた。 「だろ? なんか意味あるんじゃないか?」  知己は尋ねるが 「うーん。分からない」  コーヒーを淹れてくれるのは有難いが、頼りない兄貴だ。 「思い出せ! なんでもいいから。無駄にいいその記憶力を総動員させろ!」 「その言い方は褒めているのか、貶しているのか。謎ですね。先輩」  今日は知己がL字型ソファの短辺に座った。  礼が見つめる辺りを、知己はソファから降りて入念に探してみたが、特にそれらしいものはない。  将之はカップを口に運びながら 「それ、無駄だと思います」  ずいぶんとドライな意見を放った。 「なんでだよ」 「確かにこの家で過ごした時間は、他のどこよりも長いと思いますが、ソファに思い入れなんてないと思いますよ」  じゃあ、礼のあの視線は何なんだろう。 「もしくは……」 「もしくは?」  知己の気分は、すっかり「鑑識」だった。  事件(?)の手がかりをなんでもいいから見つけたい一心でソファの周りをグルグルと探し回っていた。  将之の言葉にすかさず飛びついた。 「これだけ心当たりないんですよ。もしかしたら、僕が礼ちゃんと一緒だった時じゃないかも」 「?」 「礼ちゃん高1で、僕が大学入学。その時はもう僕、両親と離れていたので、礼ちゃんのアメリカ留学直前の両親猛反対の時には、礼ちゃんと一緒に過ごしていないんです。その時に何かあってたのなら、僕にだって分からないでしょ?」  それを聞き、知己は 「無駄骨かぁ……」  力なくソファにどっさりと雪崩れ込む。 「一体、何なんだろうな?」  座り直して、将之の淹れてくれたコーヒーに手を伸ばす。 「さあ?」  知己との温度差甚だしく将之は適当に相槌を打った。
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