夏休みが来た 9

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「くれぐれも寂しいからって浮気をしないように。……ふ、ふふ」  なぜか将之は嬉しそうに、かつ意味ありげに笑い出した。 「何だ?」  と知己が訝しげに訊く。 「いえ、先輩が僕サイズの玩具で夜の寂しさ紛らわせると思うと、なんか嬉しくなって……、ふ、ふふ……」  性懲りもなく嬉しそうに近付いてきた将之を 「……お前、な」  当然、知己が右腕で制した時に、 「お風呂、どうぞー」  と礼が声をかけた。 「今日は、何やってたの?」 「相撲だよ。張り手の練習」  将之は、昨日とは違ってすんなりとごまかした。 「男同士の友情って、なんかよく分かんないわー」  呆れる礼の横で、知己と将之はじゃんけんを始めていた。  将之はパーで知己はグーを出していた。 「では、今日は僕から行ってきまーす」  手を振りつつ、ご機嫌に将之が風呂場へと消えた。  礼と二人きりになったが、将之のように明るく振舞えない。 (あいつ、嘘つくのに慣れ切ってるな)  妙な緊張。 「……礼ちゃん」  沈黙に耐えられずに知己が声をかけたが 「何? 二人だけで美味しい物飲んで」  礼はリビングのローテーブルに置いてあるカップを見逃してはいなかった。 「あ、礼ちゃんの分はサーバーに残っているよ」  将之が礼の分を忘れるわけがない。 「ありがと」  短く(れい)を言うと、礼はコーヒーをガラスの器に移し、続いて氷をも入れた。アイスコーヒーにして楽しむようだ。 「む。酸っぱ」  奇しくも礼は知己と同じ感想のようだ。 「これ、ブルマンかなぁ? 私、モカの方が好きなんだよね。  あ、そだ。ねえねえ、知己お兄さん。明日は海に行こう」 「海?」 「お風呂で考えてたの。明日はどこ行こうかな? って  土曜日だから、知己お兄さんも将之お兄さんも休みよね? せっかくだから三人で出かけましょうよ」 「うん。いいけど」  喉が渇いていたのだろう。  早々にキッチンでコーヒーを一気に飲み終えると、手際よくコップを洗った。 「私、もうお部屋に行くわ。さすがに疲れちゃったみたい。  でも、明日は早起きしてよ。朝一で行くんだから、ね。将之お兄さんにも言っといて。車は、どっちの車でも出してもらえると嬉しいわ」  言いたいことを言うだけ言って、 「じゃあねー。おやすみー」  ウィンク一つ残して、礼は軽快に去っていった。
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