悪名高き八旗高校 3

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「どっちにしろ、あいつ、うざいし面倒。調子に乗ってるから一回シメとこ」 「それには賛成。『特別教室棟に寄りたくない』って思わせたいし、ね」 「前の理科担、ちょっとビビらせたら特別教室棟(ここ)に来なくなって、本棟の教室授業ばっかにしてくれて助かったしな」 「ついでに英担(英語担当教師)も、ちょっといじったら学校自体に来なくなったしね」 「あれは、いじったレベルか? いじめじゃないのか?」  飲み干した缶を置く。よく見ると、非常階段踊り場の隅っこには、同じブラックコーヒーの空き缶が数本丁寧に並べられていた。須々木俊也の仕業と思われる。  「だって、もともとは敦の考えたゲームだからね。ゲームなんだから『いじめ』じゃないよ。そこは『いじった』でいいんじゃない?」  いじめた→いじった  一文字違いで、大違いだ。  俊也は 「頭のいい奴は、何考えているか分からないな」  と呟いた。 「俊ちゃん、頭いい奴は八旗高校(ここ)には来ないよ」 「お前、来てるじゃん」 「僕は、八旗高校(ここ)に来て、トップになりたかっただけ」 「性格ワルぅ」  俊也は心底、目の前の同級生に (人は見かけによらないな)  と思った。  瞳の大きな愛らしい姿の少年が、信じられない言葉を次々に吐き出している。 「本当に頭いいヤツってのは、(あつし)のことを言うんだよ。僕にはあんなゲーム、思いつかないもん」 「じゃあ、なんで敦は八旗高校(ここ)に来たんだ?」 「さあね。昔から一緒だけど、僕、あの子の考えていることは分かんないから」  そういうと、吹山章は胸元のポケットから携帯を取り出した。 「章は、敦と小学校からの付き合いだったな。そういや、今日、学校来なかったな」 「今日は体調悪いから休むって、さ」  LINEの画面を眺めて、答える。 「あ、返事来てた」 「なんて?」 「平野とゲームやる時は自分がしたいから、まだしないでって」 「……敦も、相当いい性格しているよなー」  俊也は半ば呆れて言った。 「じゃあさ、平野、剥いちゃう?」  ニコニコと嬉しそうに章が言う。 「あいつ、男か女か分かんない顔しているし。確かめちゃう?」 「お、いいね! でも、敦抜きでしていいのか?」 「これはゲームじゃないから、いいだろ?  平野は教師。こっちは生徒。僕たちは手を出せるけど、向こうは出せないんだよ」 「ほんと、お前って性格いいよなー」  その時 「……っ……」  誰も来ないはずの非常階段下から人の気配がした。
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