242人が本棚に入れています
本棚に追加
/778ページ
「ソファを睨みながら父に呪詛送ってましたね」
絶対にそうですよね? みたいな顔をされた。
「……違うと思う」
100%間違いないみたいに言われると否定しにくい。少し気おくれして知己が答えた。
「え? じゃあ、生霊でも飛ばしているのかな?」
何故こうも自信満々にスピリチュアルな意見を言うのか。
「それも多分、違う。
お前、最近、何読んだんだ?」
「読んではないのですが、この間、夏の特番を……いや、え? あれ? 何の話でしたっけ?」
キョトン顔の将之に
「もー! 遅ーい!」
階段下の砂浜で礼が急かす。
「見つけても教えてあげないからねー!」
「え? 何を?」
階段の途中で知己が尋ねると
「リュウグウノツカイ!」
と言って、礼は視線を波間に移した。
乙女が砂浜で探すもの。
(それは、一般的には「綺麗な貝がら」じゃないのだろうか?)
知己の予想は、見事に裏切られた
明らかに意図をもってお宝か何かを探すハンターの視線になっている。
「あの……礼ちゃん。もしかして、ここに来たかった理由って……」
懐かしかったからじゃないのか?
「博物館で剥製の紹介に【海浜公園付近で漂流】ってあったじゃない? もしかしたら、今日も見れないかなって」
その目は、知己を見ることもない。ずっと波打ち際に釘付けだ。
「地名を具体的に書くと愚かモノが取りに行くって言ってなかった? それを実践しているのか?」
「礼ちゃんは、オロカモノじゃないです!」
憤慨するのは、知己の後ろに続く兄馬鹿な馬鹿兄貴だった。
「あれは発掘品の話でしょ? 一緒にしないで。生き物は違うわよ」
「それでも、礼ちゃん。リュウグウノツカイには会えないよ……」
「そうそう拝めないってのも知ってる! 深海魚だから、まず水面に上がってくるのが珍しいってのも分かってるわよ。だからニュースになるんじゃない! でも、もしかして……って思わない?」
ああ、ここでも将之と血の繋がりを感じる。
何故にこうも自信もって言い切れるのか。
「思わない」
と知己が言うと
「夢がないなぁ」
礼が呆れたように、腰に手を当てて振り返った。
(父との思い出を懐かしがっていると思ったのは、気のせいだったのか?)
最初のコメントを投稿しよう!