夏休みが来た 10

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「ソファを睨みながら父に呪詛送ってましたね」  絶対にそうですよね? みたいな顔をされた。 「……違うと思う」  100%間違いないみたいに言われると否定しにくい。少し気おくれして知己が答えた。 「え? じゃあ、生霊でも飛ばしているのかな?」  何故こうも自信満々にスピリチュアルな意見を言うのか。 「それも多分、違う。  お前、最近、何読んだんだ?」 「読んではないのですが、この間、夏の特番を……いや、え? あれ? 何の話でしたっけ?」  キョトン顔の将之に 「もー! 遅ーい!」  階段下の砂浜で礼が急かす。 「見つけても教えてあげないからねー!」 「え? 何を?」  階段の途中で知己が尋ねると 「リュウグウノツカイ!」  と言って、礼は視線を波間に移した。  乙女が砂浜で探すもの。 (それは、一般的には「綺麗な貝がら」じゃないのだろうか?)  知己の予想は、見事に裏切られた  明らかに意図をもってお宝か何かを探すハンターの視線になっている。 「あの……礼ちゃん。もしかして、ここに来たかった理由って……」  懐かしかったからじゃないのか? 「博物館で剥製の紹介に【海浜公園付近で漂流】ってあったじゃない? もしかしたら、今日も見れないかなって」  その目は、知己を見ることもない。ずっと波打ち際に釘付けだ。 「地名を具体的に書くと愚かモノが取りに行くって言ってなかった? それを実践しているのか?」 「礼ちゃんは、オロカモノじゃないです!」  憤慨するのは、知己の後ろに続く兄馬鹿な馬鹿兄貴だった。 「あれは発掘品の話でしょ? 一緒にしないで。生き物は違うわよ」 「それでも、礼ちゃん。リュウグウノツカイには会えないよ……」 「そうそう拝めないってのも知ってる! 深海魚だから、まず水面に上がってくるのが珍しいってのも分かってるわよ。だからニュースになるんじゃない! でも、もしかして……って思わない?」  ああ、ここでも将之と血の繋がりを感じる。  何故にこうも自信もって言い切れるのか。 「思わない」  と知己が言うと 「夢がないなぁ」  礼が呆れたように、腰に手を当てて振り返った。 (父との思い出を懐かしがっていると思ったのは、気のせいだったのか?)
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