夏休みが来た 10

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(冷静に考えたら、そうだよな。家出モドキをして、早9年。その間ずっと将之とだけ連絡とって、他の家族とは音信不通。いくら嫌いだと言っても、気にならないわけがない……よな?) 「礼ちゃん……」  知己はようやく広場からの階段を下りて、礼の立つ砂浜で向かい合った。  距離にして3mほど離れている。  会話するには、苦しい距離だ。 「なあに?」  自然と声を張るようにして、礼がお気に入りのモノトーンツーカラーのワンピースが潮風にひらめくのも気にせずに、仁王立ちで応えた。 (だけど……なんて訊いたらいいんだろう?)  父親のことが地雷なのは、敦とのやりとりで分かっている。  それなのに普通に訊いて、礼は素直に答えてくれるだろうか。  なんとか礼の本音を聞きたいところだが、知己は礼相手にそんな話を引き出すような真似ができるとは到底思えない。 (それが得意なのは、この男……なんだよな)  背後に続いて階段を降りてきた将之をちらりと見る。 「?」  知己の視線の意味が分からずに、将之は首を捻るだけだった。 (だけど、こいつは礼ちゃんに関してとことんダメな男になり果てるんだよな)  頼みの綱の将之は、こと礼に関しては超強化防弾特殊曇りガラスのメガネでもかけているかのように、その姿を的確に見ることはできない。  実際に礼のソファへの視線に気づくのも、遅過ぎるほど遅かった。もしかしたら、これまでも帰国の度に見つめていたかもしれないというのに、知己が指摘するまで気付かなかったくらいだ。 (当てにはできない……)  知己はため息を吐くと共に (自分で訊くしかない)  と腹を括った。 「何よぉ?! 気になるなぁ! 知己お兄さん、言いたいことあるんなら、さっさと言って!」  知己のため息を勘違いして、礼が不満の声を上げる。 (俺の頭で小細工して訊いたって、たかがしれている。もう単刀直入に訊くか)
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