夏休みが来た 10

4/11

242人が本棚に入れています
本棚に追加
/778ページ
「礼ちゃん、君」 「?!」  背後の将之が息をのんだ気がしたが、かまわず知己は続けた。 「最近おと……、んっ!」  その時だった。  将之が腕を素早く回し、知己の口を塞いだのだ。 『礼ちゃんに何を言う気ですか?』  こんな時に身長差10cmが、ものをいう。  やや背を反らすかのような形で後ろの将之の胸元に引き寄せられ、将之が耳元で囁くように咎めるのを聞いた。  先ほどの会話で、知己が父親の話を振ろうとしているのを察し、将之はすかさず止めたのだ。 「んっ……んーっ!」  答えようにも、口を塞がれていては答えようがない。 「……『最近、おと』?」  礼が、知己の言葉の続きを催促するように復唱した。 「えっ、と……。  さ、『最近、大人になったね』って、先輩が言っているよ!」  将之が「んー、んー」唸る知己の代わりに、とって付けた言い訳を試みた。 「え、やだ。そんな……」  一瞬、礼は嬉しそうに頬を染めて喜んだが 「……って、知己お兄さんと会って、私、まだ4日しか経ってないんだけど! この4日間でそんなに老け込んだ? それとも4日前はそんなにお子様だった?」  どう考えても誉め言葉でないことに気付き、将之の苦しい言い訳にツッコんだ。 「あ、やっぱり無理があったか……」  将之がぼそっと呟いたが 「なあに?」  3mほど離れていたのと寄せては返す波の音にかき消され、礼にはよく聞こえずに済んだようだ。 「いやいや、意訳すると『最近ますます綺麗になったね』ってことだと思うよ」 「なんで、いちいち将之お兄さんが答えるの?」 「え? や。だって……」  ちらりと知己を見ると、いまだヤる気満々の知己の表情。 (今の先輩は、口を開くと爆弾発言しか出さない……)  将之の疑惑は確信に変わって、知己の口からいよいよ手を離せずにいた。 「ですよね? 先輩!」 「んー! ん、んー!」  口と後頭部を両手で押さえられつつ、無理やりガクガクと上下に頭を振られる。  続いて、知己の口元に耳を寄せるふりをし 「何? 礼ちゃんの夢を手分けして探そう? それはいい考えです。  礼ちゃんはそっちを探して。僕らは向こうを探すから。もしも本当にリュウグウノツカイが居たら、電話で教え合おうね」  と強引に持ち掛けた。
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加