夏休みが来た 10

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「それは嬉しいけど……。  本当に知己お兄さん、そんな風に言ってるの? なんか腹話術の人形みたいになってない?」 「なってないし、そう言ってる!」  言い切ると、今度は知己の右手を取って礼にプラプラと手を振る。もれなく腹話術師とその人形状態だった。  礼は目を細め、疑いの眼差しを向けたが、将之がその視線から逃れるように 「じゃあ、また後で! 見つからなくっても15分後にはこの階段下に集合だよー!」  これまた適当に言い、知己を連れて階段より左に歩き始めた。  礼は釈然としていなかったが、一人取り残されたので、 「ま、いっか」  と、とりあえず二人とは反対方向に探し始めた。 「お前、本当に口から先に生まれた男なんだな」  礼に背を向けて遠ざかりながら、知己はやっと口を解放された。 「こちらは必死でしたよ。なんだってあんなことを言い出したんですか? 礼ちゃんにとって父のことは地雷そのものなのに」 「そうかもしれないけど、なんか引っかかるんだよ。あの視線……」 「気のせいです」  すぱっと言い放つ将之に 「そうか? お前の言うように呪詛を送るにしろ、生霊を飛ばすにしろ、懐かしがっているにしろ、礼ちゃんはお父さんのことを考えていると思うんだけどな」  知己は食い下がった。 「まさか。だってあんなに毛嫌いしている父なのに?」 「例えば……仲直りしたいとか?」 「ないないないない。絶対にない。  礼ちゃんはグローバルな視野を持つクリエィティブな自立した女性なんですよ。今さら父に依存とかないないないない」 「そう……だよな」  とは言うものの、いまだ納得はできない。  知己は遥か沖の方を眺めた。 (このまま礼ちゃんをアメリカに帰せない……)   「だけど、依存じゃなくっても家出同様に出てきちゃった礼ちゃんは、そのまま9年間、お前以外の家族とは音信不通だろ? 気になったとしても不思議はない。余計なおせっかいかもしれないけど、放っておけないんだ。俺、礼ちゃんのことが好きだから、さ」 「は?」  眉がつりあがった将之が、また、両手の親指を付けたり離したりする謎の動きをし始めた。 「あ、お前の妹だからだぞ。本当に妹みたいに思っている」 「……ま、いいでしょう」  と言っている割には、将之は謎の動きをやめていない。 「だから、礼ちゃんには幸せになってほしいんだ」 (あ。これ、昨日の礼ちゃんの言葉だ)  言った後に気付いた。
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