夏休みが来た 10

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(と、いうことは礼ちゃんも俺に対して『兄』みたいだと思ってくれていると考えていいんだよな?) 「日本に後悔や悲しい気持ちを残したまま、アメリカに戻ってほしくない」  と知己が言うと、 「……なんだかんだで結局面倒見がいい所が、先輩の良い所なんですよね」  何やら考えていた将之が不意打ちを浴びせた。 「え? 何を急に……」 (褒められた?)  突然、なぜか褒められて図らずも知己の頬が赤らむ。 「……礼ちゃんが居る所為かな。高校時代の気持ちを思い出しました」  隣を歩く知己の手を取り、自分の方に強引に引き寄せる。すると、知己は砂に足を取られ、もつれ込むように将之の胸に倒れ込んだ。 「おい! 人が見ているぞ」  慌てて知己は、肩を抱く将之の胸を押し返した。  確かに頭上の海浜公園の壁には釣り人が数人居たが、誰もが真下の砂浜になど気にも留めていない。見られたとしても、海辺ではしゃぐ男同士のじゃれ合い程度だろう。 (やたらと粗暴で照れ屋のコミュ障だったけど、なんだかんだで面倒見が良くって、部活の後輩にやたらと慕われてたよな。その所為で、果てはあの忌々しい甥っ子や門脇君、同僚のクロードにも……) 「……ついでに嫌なことも思い出しましたが」 「は?」 「大丈夫です。これ以上は、ここでする気はないです。……というか、萎えました」  と言うわりには、知己の肩を離したがらない将之との会話に 「一体、何の話だ?」  知己は意味が分からずにツッコむしかなかった。 「高校時代から現在までの嫌な思い出が、走馬灯のように蘇りました」 「中途半端な走馬灯だけど、将之……死ぬのか?」  眉間に皺を寄せて知己が尋ねると 「今後、お互いに平均寿命まで生きると仮定したら、2歳若い分だけ先輩より長く生きると思われますが。  それは、そうと礼ちゃんに父の話です」  将之は話を一旦戻した。
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