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人の気配に目をやると、非常階段を5段ほど上がりかけていた事務職員・坪根卿子が居た。章たちを見て、驚いているのか怯んでいるのか、とにかく動けないでいる。
「あれ? もしかして……聞かれちゃったかな?」
「……!」
その言葉を皮切りに、卿子は動いた。
踵を返して階段を駆け下りた。
それをぼやくように言うだけで全く動こうとしない章の脇を素早くすり抜け、座っていたはずの俊也が追う。
そして非常階段への出入り口、ドアを開ける手前で、卿子の手首を捕まえ、ねじり上げた。
「……痛っ! 離して!」
卿子が声を上げるが、虚しく、人気のない特別教室棟脇では誰も聞きつけてこない。
遠く車が走る音。体育館や運動場で部活に勤しむ声がわずかに聞こえてくる程度である。
「離して? 『離してください』の間違いだろ?」
誰も来ないのを確信して、俊也がにやりと笑った。
赴任者の異動書類をまとめていた卿子は、知己の書類の不備に気付いた。
4月も終わりに差し掛かっている。
見落としていた自分に非がある。このままでは知己に申し訳ないと思い、知己を探しに事務室を出た。だが、職員室に知己はいない。理科室にインターフォンをかけてみたが出ない。仕方なく、はるばる特別教室まで探しに来たら非常階段の方から声がした。
もしかしたら、知己が気分転換に外に出ているのかとやってきた所、いたのは須々木俊也と吹山章だった。
二人のただならぬ雰囲気に、卿子はすかさず逃げたが15歳の少年の足にかなわずあっさり捕まった。
「しょーう、どうする?! このお姉さんも剥いちゃう?」
二階にいる章に向かって俊也が尋ねると
「いーんじゃなーい」
さして興味のなさそうな返事が上から聞こえてきた。
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